旅と暮らし
北欧の“鉄旅”が楽しすぎる!
第4回:夜遊びなしにはオスロを去れない。
北欧屈指のバーはうわさどおりカクテルの楽園だった!
2019.08.28
オスロで一番の楽しみは、バー「HIMKOK」
北欧5日目の夜、オスロ中央駅に到着。駅中で軽い夕食を済ませ、宿に荷物を置いて向かったのは「HIMKOK」だ。近年、オスロのカクテルシーンが熱いが、それを牽引する存在となっているバーである。「世界のベストバー 50」の常連でもあり、北欧内では常にトップにランクイン。
人気の理由を探りに行くと、住所どおりの場所に行ってもそれらしき看板はなく殺風景だ。でも、壁にHの文字があったためドアを開けると、そこから一気ににぎやかな世界が広がる。
2階構造の店内は思いのほか広く、大箱のクラブのようだ。サイダーバーのカウンターに、2つのカクテルカウンター、2つのテラス、ウォークインセラーに床屋、フォトブースまで用意。飲めるスペースとお酒のメニューがいくらでもあり、もちろんモクテル(ノンアルコールカクテル)もそろっているからお酒が飲めなくても探検する価値はある。
ノルウェー食材というとサーモン以外思いつかなかったりするけれど、ここに来ればこの国でどんなものが作られているか知ることができる。地域に根付いたレストランと同じ役割だ。カクテルには海藻、ブラウンチーズ、ビーツ、ワイルドベリーといったナチュラル素材が使われ、さらに店内の小さな蒸溜所では、北欧を代表するジャガイモの蒸留酒アクアビットに、ウォッカ、ジンが造られている。
イケイケな店に見えて接客はフレンドリーでとても丁寧だった。カウンターは予約含め満席だったが、「予約客が来るのは30分後だからそれまでいいよ」と座らせてくれたので、アクアビットのカクテルをオーダー。お客が来たので席を離れテラス席で飲んでいたら、「カウンターが空きましたよ」と女性スタッフがわざわざ呼びに来てくれた(よほど飲むと思われたのかもしれない)。楽しくてカクテルを5種類も飲んでしまった。
はしごするなら、「HIMKOK」から徒歩1分の「Torggata Botaniske」もおすすめだ。Botaniske(植物の)と店名につくように緑の葉が張り巡らされた店内がフォトジェニック! こちらも地元の果実やハーブを使ったカクテルが豊富で、どれも安定したおいしさ。
世界的な建築事務所「スノヘッタ」がノルウェーを盛り上げている
前回のフロムの展望台しかり、ノルウェーのデザインはウィットに富んでいて、街を歩いていてそこかしこで面白い。そもそも、毎日使う紙幣が斬新だ。
多くの国が偉人の肖像画を描くところ、ノルウェーの場合は魚や船に波! 2017年から使用されているこの新紙幣は、“海”をテーマに公募でアイデアを募ったもの(公募というのもすごい)。海洋国家であり海の保全活動に全力を注ぐ国らしい大胆なテーマである。
結果、表面はデザイン事務所「ザ・メトリック」、裏面は建築事務所「スノヘッタ」の案が採用された。表面のユニークさもさることながら、裏面はさらにファンク。オスロを拠点とする世界的建築事務所が描いたのは、ピクセル画による海や空だった。額面が上がるごとに天候が荒れて見えるという仕掛けはさすが。また、個人が自由に絵を解釈できるようにピクセルを粗くしたのも特徴で、それがビジュアル的にもイケている!
そんな紙幣のストーリーを知ったうえで必見なのが、同じく「スノヘッタ」が手がけたオペラハウスだ。オスロ中央駅から徒歩5分に位置するランドマークの完成は2008年。最大の個性は“屋根の上を歩けるオペラハウス”であることだ。巨大氷山によく例えられるこの建物は、スロープで屋上まで上れる構造となっており、屋根に立てば、街やフィヨルドの島々までを見渡すことができる。
中に入るとホールを囲む外壁がそびえ立つ巨木のような迫力で、氷河の城の中に木の城を見たといった印象。フロムでノルウェーの大自然を堪能したあとだったのでリンクするものがあり、建築美がいっそう脳裏に残った。
ちなみに木の外壁がスロープも兼ねているので、観劇の前後にここを歩けば、よりデザインの意図を知れるだろう。昼に屋根にのぼり、カフェでお茶をして、オペラを観て、帰り際にライトアップされたオペラハウスを眺める。あれこれ回らず半日ここで過ごしてもいいなとのちに思った。
コーヒー大国のレベルの高さを知る
オペラハウスで半日過ごしたいと言いながら、実際には細かく街歩きをしたのでざっくりと紹介。オスロに行ったからには外せないのが、世界中にファンをもつコーヒーショップ「Fuglen(フグレン)」の訪問。
オスロ以外には東京(渋谷と代々木)にだけ支店をもち、そういう意味で親近感もわく。インテリア好きなら内装も必見だ。そんな店で驚いたのが、ハンドドリップじゃない本日のコーヒーも十分すぎるほどおいしかったこと。ハンドドリップ絶対説が覆された。
また、もう一軒試した「Tim Wendelboe(ティム・ウェンデルボー)」にも大満足。オーナーのティム氏はかつてワールド・バリスタ・チャンピオンにも輝き、北欧コーヒー界のヒーロー的存在だ。
ランチは気軽に市場「Mathallen(マートハーレン)」でバルのはしごを楽しんだ。ちなみにいつかはレストラン「Maeemo(マエモ)」にも行ってみたい。
ところでオスロと言えばムンクの『叫び』がある街だ。本物はオスロ国立美術館に所蔵されているが、街中のそれっぽいアートも裏名物。下記は中央駅近くの「Oslo Street Food」という各国料理が集まるフードコート内で見た『叫び』的なもの。
スウェーデン製の列車は、シートの座り心地が過去最高!
正味20時間。あっという間にオスロを去る時間となり、ストックホルムへ向かうべくオスロ中央駅へ。少し早めに行き、駅舎内のレストラン「Fjøla」でノルウェーサーモンをつまみながらワインを飲む。オスロ中央駅は駅舎内にスタイリッシュな店が集まり、建築としても見ごたえのある場所なので、ゆとりをもって駅に行くのが得策だ。
オスロからストックホルムまでは530km、約6時間の旅。再び北欧4カ国乗り放題のユーレイル・スカンジナビアパスを使い、スウェーデン製の列車に乗車する。6時間座りっぱなしはしんどそうに聞こえるが、シートの座り心地がよかったので長く感じなかった。さすが、“長距離でも疲れないシート”と名高いボルボを産む国の列車だ。
さらに感心したのが、ストックホルム市街から国際空港に行くまでの列車の格好よさ! 黄色×白の列車内に入ると、家のリビングにあったらうれしくなるデザインのイスが並び、こちらも座り心地が最高。そして到着した空港は、ライトやベンチ、ゴミ箱までしゃれていて、どこの国にもある公共機関のなかで群を抜いている気がした。
大空を飛び続けてきたジャンボジェットに泊まる
5日目の夜は飛行機泊。と言ってもフライト中に寝るわけではない。なんと、「ボーイング747」がそのままホステルになった「ジャンボ ステイ」に泊まる。そのホステルがあるのはストックホルム・アーランダ国際空港の敷地内。夜遅くに到着すると、ジャンボジェットはいまにも飛び立ちそうな迫力で空港にとまっていた。
もとは1976年にシンガポール航空でデビューし、その後パンナム航空やエアアジアを経て、2002年にトランスジェットを最後に引退。改装後、2009年に“ユースホステル”としてオープンしたのも興味深い。たくさんの旅人を運んだ飛行機は、いまは優しい価格帯で旅人のベッドとなっているのだ。空港にあるのでトランジットホテルとしても便利である。
ドミトリーなら約4500円から。ボディーはもちろん、タイヤの格納庫、エンジンルーム、ブラックボックスのあった機体後部、コックピットまでが客室として改造されている。そのなかで私が泊まったのはブラックボックススイート(約2万3000円〜)。コックピットスイート(2万2000円〜)にも泊まってみたかったが、こちらは飛行機ファン憧れの部屋のため予約困難。それにしても、ユースホステルのためスイートながら、お手頃価格なのがありがたい。
ブラックボックススイートはナローになった後部全体がひと部屋となった筒型。白を基調に壁と天井が丸く作られているため、宇宙船のような印象もあった。そして日本人にとってうれしいのが、かつてのジャンボジェットが羽田空港に駐機している写真が壁に掛けられていたこと!
翌日は日中に街を見る時間があったけれど、私はこのホステルが非常に気に入ったためおこもり。たくさんの旅を彩ってきた働き者の飛行機の名残を感じ、コーヒーを飲んでいるだけで楽しかった。
出発ギリギリまで機体を眺め、昼過ぎに市内のフェリーターミナルへ移動。次は船に乗って最終目的地であるヘルシンキを目指す。
プロフィル
大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、年に10回は海外に渡航。タイ、スペイン、南米に行く頻度が高い。最近のお気に入りホテルはバルセロナの「COTTON HOUSE HOTEL」。Instagramでも海外情報を発信中。