お酒

知れば日本酒がもっと好きになる
第1回「香りの伝え方」

2019.10.18

知れば日本酒がもっと好きになる<br>第1回「香りの伝え方」

いまや、フランス料理店でのペアリングでも、注目されている日本酒。SAKEはすっかり、インターナショナルな飲み物だ。にもかかわらず、日本酒は醸造法が複雑で奥が深く、なかなか親しめないという人も多いのではないだろうか?

そこで、恵比寿のGEM by moto(ジェム バイ モト)という日本酒バーで、日本酒のおいしさ、楽しさを伝える伝道師として活躍する店主の千葉麻里絵さんに、日本酒を理解するための、“日本酒の表現”を教わった。日本酒の表現とは? と思われる人も、どんな日本酒が好きか? と聞かれ、答えに窮した経験を思い出せば、その大切さがわかるだろう。香り、味、テクスチャー…、自分の飲みたい日本酒を的確に表現する言葉を学ぶことは、同時に、日本酒がどのように造られているのかを知ることでもある。第1回は、「香りの伝え方」だ。

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日本酒にはさまざまな香りがある

食べ物のおいしさにおいて、最も重要なのは香りで、次が味と食感と言われている。日本酒の好き、嫌いも香りに影響されるところが大変に大きい。香りには、グラスから直接立ち上がる「上立香」と、口に入れて口の中から感じる「含み香」があり、そのどちらも、日本酒の味わいには欠かせない。

香りは繊細で、主観的でもあるため、爽やか、甘い、刺激的などの形容詞で表現するよりも、具体名を使用したほうが伝わりやすい場合が多い。では、日本酒の香りは何に例えられるのか。千葉さんいわく、「桃、パイナップル、メロン、ヨーグルト、チョコレート、ぶどう、プリン、レモン、りんごなど多彩な香りに分類される」とのこと。メロンやチョコレートとは意外だが、次々にその例を示され、見事にそのものの香りが立ち上がるのを実感すると、なるほどなるほど、そのように日本酒の香りを捉えたことがなかったと、驚かずにはいられない。

香りを具体的に表現することのメリット

香りを具体的に表現することに、どんなメリットがあるのか? 「香りを表現できれば、酒の特徴を記憶することができ、他人とコミュニケーションを取ることができるのですよ」と千葉さん。確かに、覚えようとしても手からするするとこぼれていくような味覚の記憶も、言語化することによって定着させることができる、ということは容易に想像がつく。

では、これらの香りの違いは何によって生じるのか? 「酵母の選択と、発酵中に出る香りによります」と千葉さん。ん? いきなり話が難しくなってきた。酵母とは何か? それを知るために、日本酒の造り方をごく簡単に記そう。

「日本酒のできるまで」と「酵母の働き」

1.浸水してから蒸した米を冷まして広げ、麹菌をふりかけ、麹を造る。
2.別の蒸した米に麹菌と水、酵母、乳酸を加えて混ぜ、酒母を造る
3.酒母の中で酵母がどんどん増えて発酵していく。そこへ「(別の)蒸米・麹・水」をセットにして何回かに分けて加える(3回に分けて加えるのが三段仕込み)。これをもろみと言う。
4.もろみの状態で1カ月ほど発酵を進め、もろみを搾る。液体となった酒が搾られ、酒粕が残る。

これが大まかな日本酒の造り方だが、2の段階で加えるのが酵母。酵母の餌となるのが、糖分。糖分を餌にして成長と分裂を繰り返していき、アルコールと炭酸ガスを出す。この、酵母から排出された炭酸ガスには「カプロン酸エチル」や「酢酸イソアミル」など、リンゴやメロン、バナナなどに含まれる香り成分が含まれる。米と米麹で造られた日本酒から、果物のようなフルーティーな香りがする理由はこれだ。

どんな酵母を選択するかで、排出される成分が異なり、さまざまな香りを有する日本酒が生まれるというわけだ。このほかにも、熟成する間に形成される熟成香もある。

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9つの香りを代表するお酒

GEM by motoで飲める日本酒のなかで、これらの香りがする日本酒を具体的に9つの例をあげてもらった。

左から、新政酒造「生成(エクリュ)2017」は、天然の乳酸菌を活用する伝統的な生酛造りとオーク樽熟成による桃のようなかぐわしい香り。三芳菊酒造「ワイルドサイドを歩け」は甘酸っぱいパイナップルの香り。英君酒造「英君」は、ライトな味わいでメロンの香り。美吉野醸造 「HANATOME」は、生米と蒸米を水につけて乳酸菌を増殖させ、その水を仕込み水とする水酛づくりでヨーグルトの香り。桝田酒造店「貴醸酒」は熟成感のあるチョコレートの香り。若駒酒造「延年」は 無加圧採りで、すーっとしたぶどうの香り。来福酒造「MELLOW」は仕込み水の一部に純米酒を使用。プリンの香りでデザート感覚。新政酒造「亜麻猫」は白麹仕込みで、レモンのようなすっきりした香り。桝田酒造店「VAN GAIHEN MASUIZUMI」は、ほのかに酸味と甘みを感じるりんごの香り。

日本酒を知る第一歩として、ぜひさまざまな香りを試してみてほしい。

第2回「味わいの表現を知る」 はこちら>>

プロフィル
千葉麻里絵
山形大学で食品の物質工学を学ぶ。利き酒師の資格を取得したのち、各地の蔵元へ通い、また、酒類総合研究所の研修で専門知識を身につけ、2015年「GEM by moto」を立ち上げる。著書に『日本酒に恋して』(主婦と生活社)、『最先端の日本酒ペアリング』(旭屋出版)。

Photograph:Takahiro Imashimizu
Text:Hiroko Komatsu

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