お酒
エトナの風土が凝縮した秀逸な自然派ワイン
ヴィヌペトラ イ・ヴィニエーリ
【今週の家飲みワイン】
2019.08.02
インターナショナルに活躍するソムリエの梁 世柱さんによる、ワイン指南。自宅で気軽に飲める、お手頃でいて本格派な一本を紹介する。今月は「イタリア」のワインだ。
シチリアの4本目のワインは、シチリアは言うにおよばず、イタリア全土でも最重要といえる固有品種ネレッロマスカレーゼ主体の「ヴィヌペトラ イ・ヴィニエーリ」。シチリア島東部にある、欧州最大の活火山エトナ山近郊にしか生息しない希少な品種を使用した赤ワインだ。
「イタリアの固有品種といえば、ネッビオーロとサンジョベーゼが2トップですが、その次になにがくるかといえば、間違いなくネレッロマスカレーゼです。エトナ山の火山性土壌で育ち、樹齢100年という古木がたくさん残っているのも大きな魅力のひとつです。ピノ・ノワールとシラーの中間のような味わいですが、より、野趣に富んだ味わいをもち、それもイタリアワインならではの楽しみです。栽培には気を使う繊細で気難しいぶどうですが、ワイン用ぶどう品種としてのポテンシャルの高さは特筆に値し、その魅力のとりこになる生産者も少なくありません」と梁さん。
そのひとりが、サルボ・フォーティ氏。シチリア1本目のベナンティや3本目のグルフィなど、シチリアの名門ワイナリーの醸造コンサルタントとして活躍してきたが、2000年に自身の畑を持ち、イ・ヴィニエーリと名付けたワイナリーを開業した。
そのなかでもプライベートプロジェクトとして取り組んだワインがこちらの「ヴィヌベトラ イ・ヴィニエーリ」。ミネラル豊富な火山性の土壌でシチリア伝統のアルベレッロ仕立てで栽培。1ヘクタールに1万本という高密植栽倍でぶどうの凝縮度を高めている。畑の手入れはすべて手作業、除草剤や殺虫剤は使用せず、エトナの家畜小屋から直接仕入れた羊の堆肥を使用していると、こだわりは半端でない。
醸造の際には酵母も使わず、ろ過もせず、土の満ち欠けに応じて瓶詰する、ビオロジックな造りに徹している。まさに樹齢100年の木々を育んできた、この地の歴史をそのまま凝縮した、“スーパーエトナ”の呼称にふさわしい希少なワインだ。
味わいは、ジューシーでブラックチェリーのように芳醇な味わいに加え、長く続く豊かなミネラル感、そして塩味を伴う余韻のあるフィニッシュへと続く。標高700m、昼夜の寒暖差の大きな土地で育つぶどうゆえのきれいな酸、豊なタンニンも持ち味である。
「料理はピノ・ノワールで合わせるようなものを想定するとよいでしょう。簡単にいえば、焼いた肉よりも、しっとりときめ細やかな煮込んだ肉というイメージです。ジビエにもぴったりですし、熟成したチーズにもよいですね」と梁さん。
7000円前後と、シチリアのワインの中では高めの価格だが、ワンランク上のシチリアの赤として、ぜひ、覚えておきた1本だ。
Photograph:Makiko Doi