特別インタビュー
渋谷直角
男が憧れる、男の持ち物。
ジージャン色落ち狂想曲。
2019.10.16
多才でいてファッションフリーク、愛用品からそのセンスを探ってみる。
高校生のころ、ビンテージジーンズのブームが起きた。昔のジーンズが数十万、70年代のモノでも数万円、みたいな過熱ぶり。欲しくても学生じゃとても買えない。ビンテージ独特の色落ちと風合いに強く憧れた。
やがてレプリカジーンズもデキのいいモノが続々リリースされるようになり、お小遣いを貯めてジージャンを買った。50年代のモノを再現したレプリカで、キチンと着込めば本物のビンテージのような色落ちになるという。しかしジーパンのように毎日はいてればすぐヒザやお尻に色落ちが出てくるのと違って、ジージャンは色落ちしにくい。
「かなり着ただろう」と思って洗濯しても、一向に味が出てこないのだ。「上半身はなかなか動かないぶん、生地がこすれず色落ちしにくいんだ」と、ジージャンを着たまま寝たり、ジージャンで腕立てしたり、とにかく暴れたり。道路に寝転がって、アスファルトにヒジや背中をこすってみたりも。一刻も早く、ビンテージっぽい風合いにしたくてしょうがなかったのだ。
そのうち「ランニングをすれば効率がいいかも」と思いつき、ジージャンを着て毎日ランニングを始めた。夏である。ジージャンは生地が硬めなので、走りにくいし暑いしで異常に汗をかく。それも色落ちのためだ。我慢して走りつづけた。かなり汗臭くなってきたので「コレはいけるんじゃ……」とワクワクして洗ったら、なんとワキの部分だけが半円状に色落ちした。ワキだけ! コレはカッコ悪い。焦ってバランスを取ろうと洗剤を多めに入れ、周りの色をワキの色に合わせようとしたのが余計にマズかった。全体がボンヤリした薄い色になって、もはやビンテージの風合いは完全に消えた。悲しい思い出だった……。以来、ジージャンは焦らず、生涯かけてもいいくらいの覚悟で付き合うことにしている。いま4年目。先長いな……。
「アエラスタイルマガジンVOL.44 AUTUMN 2019」より転載
Photograph: Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling: Akihiro Mizumoto