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FASHION VIEW
いかにして自分らしくあるか。
そこに境界線はある
2019.11.21
ビジネスとカジュアルの新たな境界線はどこにあるのか。取材は難航した。それはいわば多様化する現代の価値感やライフスタイルそのものであり、一概に定型化できないからだ。そこでイタリアのサルトリア文化に精通し、自身のブログでも絶大な人気を誇るジャーナリストのファビオ・アッタナシオ氏に話を伺った。
「マクロ的に見ると世界のファッショントレンドは確実にカジュアルに向かっています。特に若い世代のビジネスシーンを考えたときに、マーク・ザッカーバーグやスティーブ・ジョブスに代表されるように、ネクタイ派は残念ながら減りつつあります。ただそのドレスコードは、基本的に2つの問題点があります。まずスーツを着るカルチャーがないため、自分の個性が主張できない。もうひとつは、一般的な概念としてスーツを着る=格式張ったり、お仕着せという印象とともに、スーツさえ着ていればそれなりに見えるといった安易な発想もあります」
それに対し、イタリア人にとってスーツは個人的な選択であり、TPOに合わせた余裕の表れであり、文化であるとも言う。
「生地や色柄を選び、ジャケットに合わせてどんなシャツを選び、足元の靴はどうするかといった、エレガンスにもつながる選択はやはり文化的な背景が必要であり、慣れていないと着こなせません。それは服だけでなく、靴もメガネもそう。しかし身に着けるものへの理解と愛着があれば、自分に安心感や自信が持てます。たとえそれがビジネスでもカジュアルでも、さほど変わらない自分自身を保つことができるのです。大切なのは、いま身に着けているものが、自分をどのように表現してくれるか。自分らしくいられることが求められる時代だと思います」
自身もビジネスで顧客やクライアントに会うというときにはスーツにタイを締める。
「たとえば朝早めならグレースーツ、午後ならネイビーなど細かなディテールを考え、状況に合った服装を心がけます。それを楽しみ、満足感が自信につながります」
あえてビジネスとカジュアルの境界線を尋ねるとこう答えた。
「ひとつ言えることはグッドテイストであるということ。着こなしの王道をリスペクトしながら、その周辺でアレンジする。それが自分らしいグッドテイストになり、その個性を楽しむのが基本です」
変わりゆく境界線は、はからずもファッションの本質をあらためて表出することになった。それは自由でいて、あくまでも自分らしくあるべきということだ
「アエラスタイルマガジンVOL.44 AUTUMN 2019」より転載
Photograph:Masahiro Heguri[Studio], Mitsuya T-Max Sada[Report]
Text:Mitsuru Shibata
Coordinate:Michiko Ohira