紳士の雑学

株式会社アカツキ 共同創業者 代表取締役 CEO
塩田元規インタビュー[前編]
ニッポンの社長、イマを斬る。

2019.12.18

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「世界に夜明けを!」、そんな思いから2010年に創業したアカツキ。主軸のモバイルゲーム事業のほか『うんこミュージアム』などのテーマパークも話題の成長企業だ。「何よりチームが大切です」そう語る塩田元規CEOに話を聞いた。

〝すごい〞の定義は利益だけじゃない

「ある時期まで、自分が頑張りさえすればなんとかなると思っていたんです。『ピンチはチャンス! ポジティブ・シンキングで切り抜けろ! 成功者の本にはそう書いてあるじゃないか!』って。でもね、あれ、ウソなんです(笑)。ピンチはやっぱりピンチなんですよ」

アカツキCEO塩田元規氏はこう言って笑った。2010年、学生時代の友人だった香田哲朗氏とともにスタートした同社は17年に東証一部に上場。モバイルゲームのヒットを飛ばす一方で体験型エンターテインメント施設やアクティビティの予約サイトなどを運営する最も勢いのある新興企業のひとつだ。が、立ち上げ数年間は「倒産するのでは?」というピンチの連続だったという。「結局、リーダーに一番大切なものは能力ではなくて器なんですね。どれだけ受け入れられるものを増やしていくかということ」、塩田は言う。庭園美術館の緑を望むオフィスはメンバー全員が靴を脱いでいる。

突き抜ければ状況は一変する

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塩田の父は中学生のころに他界した。「長男である自分がしっかりしなくては」「生きているうちに何かを残さなくては」。おそらくそれが原点だ。親戚に経営者が多かったこともあり、起業には早くから惹(ひ)かれていた。大学のころはテニスサークルに所属。今風のルックスや軽快なしゃべりもあって「見た目がチャラいとよく言われましたけど(笑)、結構マジメだったんです」。週末は図書館に通い、他大学の授業にこっそり忍び込んで聴講する向上心の塊だった。学生団体を発足し、17人の社長にインタビューしたこともある。当時聞いた話はいまも心に残っている。

卒業後はDeNAに入社した。塩田に対して南場社長は「新卒で誰ができた?と聞かれたら真っ先に思い出す人間」と語っている。その当人は「バリバリの営業畑でがむしゃらにやってましたね。朝5時まで普通に働いていましたし、お風呂に入らず『クサい!』と言われても気にしなかった」。接待も本気でやった。取引先を喜ばせようとカラオケで20年前の歌を歌い、裸踊りまで披露する。休みの日は一発芸を真剣に検索し、懐メロを練習した。

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「人一倍努力して、絶対にあきらめない人間になろうと思っていました。ただ、人って最初は自分より頑張っている人に反発するわけです。『(仕事ばかりしてないで)お前もこっち来いよ』みたいな雰囲気もあったり。それでも変わらず続けていると、やがて周りの見る目が変わってくる。ある地点を突き抜けると状況が一変する瞬間があるんです」

塩田は新卒1年目にしてマネージャーとなり、2年目には20人から30人の部下を持った。一方で葛藤もあった。チームには年上のベテラン社員ばかり。喫煙室で自分がいろいろ言われていることにも気づいていた。

「どうにかして仲良くなろうと思ったんですね。煙草は吸えなかったんですけど、一番タールの低い銘柄を買い自分も喫煙室に通ったり(笑)。いま思うと、焦燥感ばかり。あの年齢でマネジメントの経験ができたのはありがたかったんですが、自分だったら絶対、下にはつきたくない。当時は誰よりも頑張ること、優秀なリーダーであることに価値があると信じていました。結果、周囲にも同じような頑張りを押し付けていたわけです。それはアカツキの初期まで続いてしまうんですけど」

3億の借金よりつらかったメンバーの退社

2010年、塩田は独立しアカツキを起業した。27歳で会社を興す、学生時代からの目標だった。共同経営者は友人である香田哲朗。知人たちから400万円を借り集め、香田の自宅でモバイルゲーム事業をスタート。その分野を選んだのは二人ともゲームが好きで何よりモバイルの可能性を信じていたからだ。「睡眠時間は日々3時間程度。給与は半年間なし。けれど、貯金はどんどん減り、残金は10万円に(笑)。そんなことばかりで何度も倒産しそうになりました。外部でコンサルの仕事をしたりしつつ、なんとかしのいでいましたね」

3年目に入ると業績が伸びはじめ、メンバーの数は30人を超えた。同時に「もっと、もっと」という欲が出てくるころで、塩田は落とし穴にハマってしまう。「会社の売上に貢献してくれそうな、けれど、アカツキの文化には合わないメンバーを採用してしまったんです」

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創業からのメンバーは隅へと追いやられ、気づくと社内のムードが変わっていた。進行中のプロジェクトも雲行きが怪しくなった。業績を上げるどころか、毎月3000万円ほどの赤字が続いた。塩田は5億円を借り入れ、そのうち3億円の連帯保証人となった。「リーダーで大切なのは器です。けれど、このときの僕はおちょこ程度の器しかなくて(笑)。『これ以上、自分に負荷を掛けないでほしい』そう思っていたんです。メンバーの話もきちんと聞いてあげられなかった」。結果、創業から一緒に頑張ってきたメンバーが一斉に辞めてしまった。そのショックは借金の比ではなかった。

「お金や社外のトラブルは不安です。ですが、社内に自分を信じてくれる人がいれば経営者の心は折れたりはしない。一方で、組織が内部から崩壊していくことは……、もう、どうしようもない怖さがあります。前線に戦いに行って背中から撃たれてしまうような」

ストレスで眠れず、夜はひとりで泣いた。体調も崩した。そんなとき、社外取締役でもあるメンターに言われた。「アカツキでみんなをワクワクさせたいとか、幸せにしたいって元ちゃんはいつも言ってるけど、その中に自分は入っているの?」と。その言葉にハッとさせられた。幸せという枠組みの中に自分の存在はまったく抜け落ちていた。

「会社はみんなで作るものだって、僕自身、口にはしていたんです。けれど、実際には反対の言動ばかり。自分の不安を見せることができなかった。『頑張ろう! 頑張ろう! 俺たち、頑張ろう! 頑張ろう!』って。そういうリーダーが何を起こすかわかりますか? メンバーの側も『不安だ』と言えなくなるんです。お互いが強がりつづける関係の極致ですよね」

しんどいんだ、限界なんだ。塩田がメンバーの前で言ったのはその後だった。弱音を吐くのは初めてで、これですべてが終わってしまうと半分は覚悟した。けれど、仲間はこう返した。「なんでひとりで抱え込むんだよ。そうじゃなくてさ、会社はみんなで作るものだろ?」

<<後編に続く

プロフィル
塩田元規(しおた・げんき)
1983年、島根県出雲市生まれ。2006年横浜国立大学工学部電子情報工学科卒業。08年一橋大学大学院MBAコース修了。同年ディー・エヌ・エーに入社し、インターネット広告営業マネージャーや広告事業本部ディレクターなどを務める。10年6月に香田哲朗氏(取締役COO)と共同でアカツキを創業。16年3月に東証マザーズ上場、17年9月に東証一部へ市場変更。著書に『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』(幻冬舎)がある。趣味のサーフィンやアウトドアのほかアートへの造詣も深い。オフィス内には多くのアート作品が飾られており自身も筆を握る。アカツキ9周年を記念した『約束の樹』はアカツキのメンバー並びにアカツキ出身のアーティスト、三好大助氏らと描き上げた大作で、著作の表紙にも使われている。

「アエラスタイルマガジンVOL.45 WINTER 2019」より転載

Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima

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