紳士の雑学

株式会社アカツキ 共同創業者 代表取締役 CEO
塩田元規インタビュー[後編]
ニッポンの社長、イマを斬る。

2019.12.25

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「世界に夜明けを!」、そんな思いから2010年に創業したアカツキ。主軸のモバイルゲーム事業のほか『うんこミュージアム』などのテーマパークも話題の成長企業だ。「何よりチームが大切です」そう語る塩田元規CEOに話を聞いた。

ゴールは作らず、全体の中の個を生かす

アカツキはその後、『サウザンドメモリーズ』(現在はサービス終了)などモバイルゲームの大ヒット作をリリースし、17年に東証一部に上場した。18年は過去最高となる売上高281億円、営業利益136億円を計上。前後にはアウトドアアクティビティの予約プラットフォーム『そとあそび』や体験エンターテインメント施設『アソビル(『うんこミュージアム』を常設)』を開設したほか、東京ヴェルディの運営に参画するなど複数の事業を展開している。

2020年で創業10周年。アカツキの現状について尋ねると「すごい会社になったなぁと」、塩田はうれしそうに言う。これは少々意外でもあり、ほほ笑ましくもあった。多くの経営者はどれほど会社が成長しようとも「到達点としてまだまだ」「3合目くらい」など辛いフレーズを返すからだ。

「僕の〝すごい〞の定義は売上利益のことじゃないんです。アカツキの成長はリーダーが戦略的に秩序を作ってコントロールした結果ではないんです。もっと自律的な秩序というのか、ひとりひとりがダンスを踊るように会社が回ってきた感じ。チームが本当に進化してどんどん変わってきている。それが〝すごい〞と感じています」

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実際には塩田はもっとたくさんの言葉を連ねたが、それでも言い足りなさそうだった。ベンチャーというもの、社員の成長と会社の成長はほぼイコールの関係でもある。わかったのは塩田が会社のメンバーのことを誇らしく思っていること、チームが大好きで仕方がないということだった。

「以前、聞いた話なんですが、生け花では最初にビジョンを作ってはダメなんです。『1本の花をどう生かすか』から始まり、その結果、ビジョンが立ち現れてくると。その後に再び1本の花に戻り、また全体に戻る、その繰り返しなんだと。まさにそれ! 経営の本質だと思いましたね。個を生かすときに個を分離させて見るのではなく、全体を見る。森にある、1本の木は周囲の成長に合わせて自らも育っていく。そうした自然観と向き合って経営している限りは外さないんじゃないかなと、いまの自分は思っています」

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いい道を行こうとしすぎるな!

アカツキ成長の過程は塩田自身の成長の過程でもあった。自他ともの弱さを受け入れること。「やる気が出ない」「好きなことがない」「この仕事、飽きた」、メンバーにはネガティブなフレーズも臆することなく口にしてほしいと言っている。「不安だと思うことをひとつひとつ受け止めていく。僕自身、いろいろわかったつもりになったいまでも、会社の文化とズレるようなことをやってしまうことがある。株価を気にしてゲームのリリースを早めてしまい、失敗してしまったり(笑)。ただ、多くの人に言いたいのは『いい道を行こうとしすぎるな!』ってことです。ダメなことも自分と切り離さず受け止めることができれば、すべて自分を大きくする過程になる。だったら、悪いことなんかなくて全部いいことだよね、って。……まぁ、ピンチはやっぱりピンチなんですけど」、そう笑い飛ばすあたりはいまの器の証しだろう。

起業家に憧れた20歳のころ、学生団体を発足し、「経営と幸せ」をテーマに17人の社長にインタビューした。そのときに会った経営者の言葉はいまも指針になっている。

「優れた経営者というのは見えない何かに気づける人だ」と。塩田は笑う。「やっと追いついてきたかなって。数字は大事。だけど、見えないものは意識しないと気がつかない。合理と感性、両方あるからこそ意味があるんだなと」

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メンバーと描いた『約束の樹』の制作風景。筆や指を使った7mの大作だ。

<<前編はこちら

プロフィル
塩田元規(しおた・げんき)
1983年、島根県出雲市生まれ。2006年横浜国立大学工学部電子情報工学科卒業。08年一橋大学大学院MBAコース修了。同年ディー・エヌ・エーに入社し、インターネット広告営業マネージャーや広告事業本部ディレクターなどを務める。10年6月に香田哲朗氏(取締役COO)と共同でアカツキを創業。16年3月に東証マザーズ上場、17年9月に東証一部へ市場変更。著書に『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』(幻冬舎)がある。趣味のサーフィンやアウトドアのほかアートへの造詣も深い。オフィス内には多くのアート作品が飾られており自身も筆を握る。アカツキ9周年を記念した『約束の樹』はアカツキのメンバー並びにアカツキ出身のアーティスト、三好大助氏らと描き上げた大作で、著作の表紙にも使われている。

アエラスタイルマガジンVOL.45 AUTUMN 2019」より転載

Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima

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