カジュアルウェア
ビームス クリエイティブディレクター 中村達也
[ビームス軍団、ピッティを往く。]
2020.05.07
アパレル業界の低迷が言われて久しい。だがそのなかでも快進撃を続けるセレクトショップがビームスだ。その名は広く海外にも知れ渡り、イタリアのフィレンツェで開催される世界最大級のメンズファッションのトレードフェア「ピッティ・イマージネ・ウォモ」でも大きなプレゼンスを見せつける。日本のファッションをけん引するその姿をピッティ会場で追った。
変化や流れをつかむには継続が不可欠なんです
クリエイティブディレクターの中村達也氏を会場で捕まえるのはなかなか難しい。
「初日はすべてのブースを流して、気になるブランドを最後に再チェック。そこで感じた印象を確信にするため、翌日は深掘りしていくといった具合です」と中村氏。そのスピードは尋常ではなく、自身「世界最速のバイイング」と笑う。
すでにピッティには 25年以上、50回近く通う。おそらく日本人バイヤーでは最も長く、そのキャリアと豊富な知識、セレクトは世界が注目する。
そんな中村氏にとってピッティの目的とはバイイング以上に、トレンドの流れを見据えるということ。それは人を見ることであり、オピニオンリーダー的な人物たちが何に注目しているかだ。
「モードの世界はシーズンのテーマをはっきり打ち出すのでわかりやすいのですが、僕らが扱うスタイルは違います。モードのようにテーマに縛られない分、面白さや多様性がありますが、それだけに変化や流れをつかむのが難しい。そのためには継続性が必要であり、相対比較で違いを感じ、見極めることが大切なんです」
ブースでは気になったポケットチーフを実際に胸に挿し、鏡に向かう。若手バイヤーの意見に耳を傾け、オーダーは任せる。それを見守るような中村氏の姿に、口を出したくならないかと尋ねると「時には売れないことがわかるのが重要なんですよ」とほほ笑む。
「バイヤーが現場でオーダーする責任とプレッシャーは大きく、経験値が欠かせません。しかも成功体験よりも失敗に価値がある。大切なのはたとえ片言でも現地の人間と直接話し、相手の人柄を知り、親交を深めることです」
ただ表面的なビジネスではなく、そうした関係性を深めることがブランドの本質や互いを理解し、より深いパートナーシップにもつながる。中村氏の視線は、こうした長期的な展望に立った後継者育成にも向けられている。
Photograph: Mitsuya T-Max Sada
Text: Mitsuru Shibata
Coordinate: Michiko Ohira