週末の過ごし方
「書字」でシンプル思考。
2020.05.26
世の中で発信される情報量は、ここ10年で530倍以上になっているという総務省の統計(※1)があります。5G時代へと、更に爆発的増加を続けることでしょう。情報を有効活用するために、これからのビジネスパーソンは何をすればよいのでしょうか?
誰でも毎日できることのひとつで、注目されているのが「書字」です。メモを取るとき、手書きの「書字」と「デジタル入力」のどちらが情報処理に向いてるか?というと、UCLAらが行った研究(※2)では、「書字」のほうが要点をつかみやすいという結果が出ています。
脳科学からも、文字を書くときに大脳が刺激されるため、情報を記憶・吸収する力が高まることがわかっています。繊細に手指を動かすため、広範囲にわたり脳の神経細胞が活性化するからです。「書字」で腕をなめらかに動かすことが、柔軟な発想と創造性を高めるというスタンフォード大学の研究もあります(※3)。「書字」する時間を脳に与えるだけでアイデアに集約できるなら、なんて効率的でしょう。
科学が示す「書字」の効能は一部かもしれません。江戸時代に人気を博した禅僧・仙厓義梵(せんがいぎぼん)の《円相図》から、探ってみましょう。自分にも書けるのでは? と思ってしまいますが、書いてみると難しい。いいあんばいに集中しながら、心とカラダがなめらかに連動できるから、やわらかく迷いのない筆になるのがわかります。
脇には「これくふて御茶まひれ」(これでも食べて、お茶でも飲みなさい)とあります。「○」は、禅画で宇宙を凝縮しているとも言われます。それを茶菓子のように「食べちゃえ」と添える洒脱さ。日々、アートに昇華して「書字」を楽しむことで、筆を持てば一瞬で複雑な思考を整理して、シンプル思考に転換できるしなやかさが育まれたのでしょう。
現代に生きる私たちは、まずは会議のメモやメッセージなどの手書きを少しずつ増やしてみること から始めてみてはいかがでしょうか。書き心地のいい道具を選んで、楽しんで続けられるスイッチを仕込んでおくことも、日本文化の定石です。
※1 平成29年版 情報通信白書|データ流通量の爆発的拡大
※2 The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking, Pam A. Mueller, Daniel M. Oppenheimer, First Published April 23, 2014
※3 Fluid Movement and Creativity, Michael L. Slepian Tufts University Nalini Ambady Stanford University, February 2012
画像提供:福岡市美術館/DNPartcom
Text: Sayaka Umezawa (KAFUN INC./MOIKA GALLERY)