お酒

日本発のクラフトジン
奥深いジンの魅力を探る 第4回

2020.06.12

小松宏子 小松宏子

日本発のクラフトジン<br>奥深いジンの魅力を探る 第4回

2017年前後、日本にもクラフトジンのブームが到来した。引き続き、ジンの魅力とジンにこだわる「バー コパン」のジェーニャさんに解説してもらう。

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国産のクラフトジンがブームになるまで

日本におけるジンの歴史は意外にも古く、19世紀には欧州から輸入されていたそうだ。また、初めて国産ジンが造られたのも戦前のことだというから驚く。しかしながら、ここでいうところの、日本におけるクラフトジンの台頭というと2017年前後となる。世界的なジンブームがひと足遅れて日本に到達したというイメージだ。

その幕開けを担ったのが、2016年に設立された京都蒸溜所でリリースされた「季の美」。日本初のジン専門の蒸留所で、“京都で造るジン”をテーマに研究を重ねたそれは、ボタニカルに老舗茶舗の玉露、柚子、山椒、紫蘇(しそ)などを使い、米由来のスピリッツをベースに蒸留し、京都でなければ造れない製品の境地を目指したのである。

その成功を受けて、「季の美」に続けとばかり、日本全国、北から南まで各地で固有のジンが盛んに造られるようになっていった。

ブームを後押しした理由

世界的なクラフトジンブームということのほかにも、日本でのムーブメントを後押しする要因があった。そのひとつが、過熱とも言えるほどの国産ウイスキーの人気である。近年、ウイスキーを造るべく、蒸留所が設立されているが、ウイスキーは何年も寝かせなければ出荷できない。それに比べてジンは寝かせる必要なく、すぐに出荷できる。そのため、ジンが並行して造られているというケースが多くある。

2つ目が、日本の高い酒造りの技術がバックボーンとして存在するということだ。蒸留前の、ベースとなるスピリッツの原料に焼酎や日本酒が使えるわけだが、歴史ある蔵元が、自社の酒をベースに新しくジンの開発に取り組むという例も少なくない。

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日本固有のジンのクオリティーが高い理由

オリジナリティーや地域性という意味で、まず大切なのがボタニカルだが、その点、日本にははっきりとした四季があり、茶や山椒、柚子など和の柑橘類、紫蘇、檜など固有の植物にあふれている。それだけ、独自性の強いジンを造り出すことができる可能性が高いと言える。

それらのボタニカルは、一般的にはまとめて蒸溜されることが多いが、国産ジンの多くは、それぞれのボタニカルの特徴に合わせて個別に蒸溜し、最後にブレンドするという、手間ひまかけた製法を踏襲している。加えて、蒸留する際のスピリッツにも、日本固有の酒を使えるということは、地域性を表現するということに対して一日の長がある。こうして北海道から九州まで、独自の蒸留文化を背景に、個性豊かなジンを生み出すに至った。

一般に、海外産のジンは辛口で、そのまま味わうよりトニックで割ることを前提に造られている場合が多いが、国産のジンはボタニカルの風味をダイレクトに楽しめるよう、やや甘口に造られているものが多い。

注目の国産クラフトジン

国産のクラフトジンとして、まずは飲むべきブランドをジェーニャさんに挙げてもらった。

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左からKOMASA GIN―桜島小みかん、アルケミエ ジン、ROKU、SAKURAO GIN ORIGINAL、季の美 京都ドライジン、油津吟、9148 No.0101、ニッカ カフェジン

KOMASA GIN―桜島小みかん

鹿児島で130年以上焼酎を造りつづけてきた蔵元が初めてリリースしたジン。ジュニパーベリー以外のボタニカルを鹿児島ならではの桜島小みかんとコリアンダーに絞ることで、輪郭をはっきりさせた。ベースとなるスピリッツは米焼酎。絶妙にブレンドされて、幅広い層が飲みやすいジンに仕上がっている。

アルケミエ ジン

岐阜県郡上八幡に位置する、個人蒸留所TATSUMI DISTILLERYで造られる、マニアの間ではつとに評価の高いレアなジン。ボタニカルはジュニパーベリーのみだが、酒粕を再発酵させて造るかすとり焼酎とちこり芋から造られるちこり焼酎がベース。また、日本伝統の木製蒸留器を使用することでウッディーな香りも加わる。

ROKU

サントリーがその高い酒造りの技術力をもって満を持してリリースした一本。日本ならではの四季を感じさせるために、桜葉、桜花、煎茶、玉露、柚子、山椒という和のボタニカルに加えてジュニパーベリー、コリアンダー、カルダモン、オレンジピールなどのトラディショナルなボタニカル、計14種をカテゴリーごとに蒸留して、それらをブレンドすることで、日本の四季を表現。

SAKURAO GIN ORIGINAL

広島県廿日市市で100年以上の歴史を誇る日本酒の蔵元が新設した蒸留所で造られる、広島初のクラフトジン。柚子、橙(だいだい)、夏みかん、レモン、ネーブルなど広島産の柑橘など14種類のボタニカルを使用。これらのボタニカルは2つの異なる蒸留法で抽出され、ブレンドされる。そのため、複雑で印象的な香りを放つ。

季の美 京都ドライジン

日本初のジン専門の京都蒸溜所が造る「季の美」は、日本のクラフトジンの歴史を切り開いた一本。ベースにライススピリッツを使用し、ボタニカルには老舗茶舗の玉露、無農薬の柚子、山椒や檜、紫蘇などを使用し、京都らしさを全面に押し出した仕上がりになっている。割り水は伏見の名水を使用。

油津吟

宮崎県の老舗蔵元・京屋酒造が手掛けている。油津吟は、蔵のある地名油津と原料の柚子をかけ合わせたもの。ボタニカルは柚子、日向夏、ヘベスなど和の柑橘を軸に、9種を使用。ベースには人気の芋焼酎2種をぜいたくに使用。焼酎独自の甘みも残しつつも、爽やかな和柑橘の香りが際立つジンに仕上がっている。

9148 No.0101

北海道初のクラフトジン。北海道自由ウヰスキーが、2018年に「自由な世界、発想、価値観を」というコンセプトのもとに開発したプレミアムジン。日高昆布、干し椎茸、切り干し大根といった和の素材を使用。日高昆布によって生まれる濃厚なうまみがジュニパーベリーの香りに続き、独特のうまみが。

ニッカ カフェジン

カフェとは蒸留機のタイプの名称のカフェスチルに由来し、19世紀に誕生した初期型の連続式蒸留器のこと。手間と技術を要する蒸留機だが、原料由来の成分がしっかり残り、香りとコクのあるカフェ式蒸留液ができる。それをベースに造られたジンだから、山椒、りんご、和柑橘などのボタニカルがしっかりと香る。

<<第3回 スコットランドの蒸留所巡り はこちら

  第5回につづく>>

Text: Hiroko Komatsu
Photograph: Sho Ueda

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