お酒
ワインと海を堪能できるマーガレット・リバーへ
西オーストラリアの魅力に迫る旅<3>
2020.06.12
西オーストラリアの醍醐味(だいごみ)を3回に分けてお届けする記事の最後はマーガレット・リバーが舞台。これまでのパースとその近郊とはまた異なるワイルドさに注目あれ!
マーガレット・リバーとは?
パースへ行くなら、2〜3泊は予定に組み入れてほしいのがマーガレット・リバーへの旅。パースから南に約270kmに位置するその地域は、ワイン好きであればすぐに反応するエリアだろう。地域名にもなっているマーガレット・リバー近辺はオーストラリアを代表するワインの産地であり、広大な自然のなかに200以上ものワイナリーが点在。ワイナリー巡りに絶好の環境となっている。
また、ワインのみならず、世界クラスのサーフブレイクも多数あり、毎年チャンピオンシップツアーも開催されている。白砂のビーチが広がり海の色はターコイズブルーときて、飲んべえで海好きだったらパラダイス! 何がいいかって、マーガレット・リバーのローカルビーチは目の覚めるようなブルーにして、未開拓な雰囲気が漂いワイルド。自然に返るような気持ちになって心底リラックスできる。私は「ここを毎朝犬と歩くような暮らしをしてみたい」と現地で思った。
ダイナミックな自然は、歩くだけでアドベンチャー!
それでは、ワイナリーの前に訪れた海沿いのウォーキングコース「Cape to Cape Track」を紹介。ウォーキングコースといえども途中に秘密のビーチがあるので水着をお忘れなく。出発地はスミスズビーチ。ここから現地ガイド「Walk into Luxury」の案内によって雄大なインド洋沿いを南に向かって歩き、巨大な花崗岩(かこうがん)のカナル・ロックスを目指す。
誰もいない真っ青な海辺はワイルドフラワーが咲く眺めから始まり、そのうち海岸沿いは花崗岩が連なる奇景ロードとなる。ダイナミックな岩の連なりは太古の世界のようで、さすがは壮大な西オーストラリアの自然。そうして歩きはじめて40分経った頃に現れるのが「The Aquarium」という絶景海水浴場だ。
「The Aquarium」はこれ以上ないほどに透明度が高く、青く、波もなく、なのに人っ子ひとりいない! たまらずダイブすると、歩いて熱くなった身体が冷たい海水に包まれ、サウナのあとの水風呂&休憩のような気持ちよさ。
しかも、この海に何か不思議な力があるのかミネラルが強いためか、入水後はギンギン&ギラギラおかしなテンションになってしまった。ちなみに自然のまんまの海水浴場のため脱衣所などはまったくないが、岩陰で着替え、海岸沿いを歩いていればそのうち髪も乾く。西オーストラリアにいると、細かなことが気にならなくなってくるのもよい。
ほかにこの近辺でもう一カ所必見なのが、鍾乳洞の「Ngilgi Cave(ギルギ・ケーブ)」。階段で40m地底へ降りていくと、頭上は大迫力のつららの天井。何万年もかけ地下水の侵食によってできた空間は地球の神秘そのものだ。冷んやりした空気と静けさが旅人を時間旅行に浸らせてくれる。
とにもかくにもワイナリーへ!
マーガレット・リバーでのグルメに関しては、ワイナリーでの食事がいちばんおいしかった。ワインのレベルが高いのだから、それに見合うようにワイナリー内のレストランも気合が入っているのだ。
マーガレット・リバーのワインの生産量はオーストラリア全体の約3%ほどに過ぎないが、プレミアムワインに限ると25%はここで造られている。つまり、マーガレット・リバーのワイナリー巡りはおいしく酔えて、かつ手堅いワインショッピングができるということ。
そんなプレミアムワインの生産地としてのポジションを築き上げた立役者となるワイナリーが「Vasse Felix(ヴァス・フェリックス)」だ。「Vasse Felix」は1967年にマーガレット・リバーで初めてビジネスとしてワイナリーを設立した先駆者であり、その歴史を聞くことは、この地のワインのアイデンティティーを知ることにもなる。
ストーリーは1960年代初頭にさかのぼる。現地の大学教授であったジョン・グラッドストーン博士がマーガレット・リバーにおけるブドウ栽培の可能性について気候・土壌面から調査を実施。「毎年確実に高品質のブドウが栽培できる、プレミアムワインの生産にとって理想の地」という結果を新聞に発表した。特に、ボルドーと似た条件をもち、海からの恩恵を受ける土壌は、ウルトラプレミアムなカベルネ・ソーヴィニヨンを育てるのにこのうえなかった。
その新聞発表は先見の明をもつ資本家たち(主に医師)を刺激し、いちばん初めにブドウ栽培を始めたのが「Vasse Felix」創設者のトム・カリティ博士。当時はなんと心臓専門医! “to make the best possible wine”をテーマにワインを造ったカリティ博士の意思は50年以上引き継がれ、いまでもこのワイナリーには名醸造家による高品質のワインがそろう。
そんな背景を知ってから飲むワインが美味しくないわけがない。醍醐味は少しずつ試せるテイスティングやワイナリーツアー。敷地内には元のワイナリーを改築してつくったアートギャラリーもあり、芝生の上でピクニックもできるので、時間に余裕をもってゆっくり過ごしたい場所だ。
もう一軒ランチで訪れたワイナリーは、「Cullen Wines(カレン ワインズ)」。1971年設立とこちらもマーガレット・リバーでは初期からのワイナリーであり、創設者は精神科医だったケヴィン・ジョン・カレンと妻のダイアナ。その後、娘のヴァーニャがふたりの信条を継ぎ、いまでは国内屈指の“環境に配慮したワイナリー”として企業の模範にもなっている。
1998年からはフルオーガニック、2004年には究極の有機栽培農法といわれるAグレードのビオディナミ認証。さらに、カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と供給量がプラマイゼロになること)に徹し、農作業時から出荷までなるべく二酸化炭素を出さない手法を採り入れると同時に、植樹活動も継続。加えてボトルもレストランも極力リサイクルの流れを作り、かなり意識が高い。そうする以外のやり方ではワインを造りたくないといった姿勢に見えた。
上記をのちに知って、このワイナリーのテラス席に座ったときに、突然、デジャブのような感動を覚えたのに納得した。それは、自分たちが住む土地を愛し、その地を純正かつベストな方法で伝えようとするオーナー(ホテルやレストラン)の店で感じる共通の感情。ワインメーカーである以前に、西オーストラリアの自然の美しさを伝えたいという思いが基盤にあり、結果、すてきなワインができる。
というわけで、ここでのランチはマーガレット・リバーでの私的ハイライトだった。ワインのつまみはブドウ畑の隣にある畑の野菜。とれたてのそら豆と冷えたロゼのマリアージュは忘れない。食後にワインを4ボトル購入したが、すぐに飲み干したので次回はもっと大量に購入したい。そして、格好よすぎる看板犬のロリーにもまた会えたらいいなと思っている。
ワインの見本市へ行きたければ、
「西オーストラリア・グルメ・エスケープ」へ
ワイナリー訪問以外にワインを買う絶好の機会となるのが、前編でも触れた「西オーストラリア・グルメ・エスケープ」。計50のプログラムが催される食の祭典は今年も11月に行われる予定で、そのうちマーガレット・リバーを舞台にするイベントのひとつが“Gourmet Village”。これは「Leeuwin Estate(ルーウィン・エステート)」を会場に多数のワイナリーを含む150ものローカル生産者が集結し、それぞれが即売会を行うもの。
また、同祭典のなかでマーガレット・リバーらしいパーティーとなったのはキャッスル・ロック・ビーチで行われた“Gourmet Beach BBQ”だ。この地のワインやビールのフリードリンクを含むBBQは、夕暮れ時のビーチが会場とあって雰囲気も満点。
いまやNetflixでもおなじみのセレブシェフ、デイビッド・チャンをNYから呼び、彼の料理をこの地のワインやビールと合わせて味わえる貴重な機会ともなった。韓国系アメリカ人のチャンが作るスパイシーなフライドチキンやBBQシュリンプは地元のクラフトビールとも相性ぴったし!
そして個人的に楽しかったのは、思いっきりおしゃれをした人たちがビーチに集まったこと。ビーチだからデニムにTシャツとかではなく、カクテルドレスに身を包み足元は裸足なんてスタイルが格好いい。
マーガレット・リバー3泊の旅の拠点としたのは「Pullman Bunker Bay Resort & Spa」。全客室が別荘のような造りのヴィラのため、日中アクティブにワイン散策するにはくつろぎやすい空間。ヴィラから10分ほど歩けばビーチに出て、サーフィンやホエールウォッチングも近くで楽しむことができる。
最後にひとつ、どうしてもお伝えしたい場所が「The Flying Wardrobe Second Hand Store」というアンティークショップ。洋服にバッグ、食器に謎の銅像まで、面白いものが詰まった店で掘り出し物を見つけられること必至。ここへは女性8人で行って全員が取り憑(つ)かれたようにショッピングに熱中した。ワインも買うことだし、西オーストラリアへの旅のスーツケースは大きいほうがいい。
以上がマーガレット・リバーの必須スポット。ここは商業色の強い観光地というより、地元の人々が気持ちいいように暮らし、カルチャーを作り、その結果、旅人を呼んでいる場所と感じた。ダイナミックな自然とおいしいワインがそろえば、無理やり作った付加価値は必要なくて、すべてがとてもナチュラルなのだ。訪れた者もそんな雰囲気になじみ、大らかな時間に身を委ねることができる。
前編のパースの魅力とのコントラストも面白いので、ぜひこの先の休暇に西オーストラリアへの旅をご検討あれ。
プロフィル
大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、毎月海外に渡航。スペインと南米に行く頻度が高い。柴犬好き。SDエイバルファン。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。