特別インタビュー
ポール・スミス=はがねのつるぎ説
[渋谷直角 男が憧れる、男の持ち物。]
2020.10.22
多才でいてファッションフリーク、渋谷直角の愛用品からそのセンスを探ってみる──。
「ドラクエは“はがねのつるぎ”を買えるようになったあたりが一番楽しい」とよく言われます。実際プレイしてると確かによくわかるのですが、ゲームの主人公にとっては「絶対ツライはず」なんて思っちゃいますね。初めてポール・スミスのシャツを買ったときを思い出すのです。
高校生のとき、それまでアメカジだったのにUKものに目覚めて、英語を読めもしないくせに「i‒D」や「THEFACE」などの洋雑誌をパルコで買うと、そこにポール・スミスの広告が載っている。UK好きには憧れブランドでした。
何年かしてバイト代を握りしめて最初に渋谷のお店で買ったのは、やはりシャツ。ポール・スミスらしい派手めな柄で、試着した瞬間「あ、もう違うわ」と。アメカジじゃない自分の姿が新鮮で、オシャレレベルが上がった錯覚と、ポール・スミスを着てるという「新しいオレ」の満足感がすごい。ところが帰宅してみると、自分の持ち服と決定的に合わない。あるのはほとんど汚いアメカジばかりで、そもそも10代の持ち服なんてバリエーションが少ないから、ポール・スミスのシャツだけ異常に浮くのです。
「なんか……、全体的には変だぞ?」と思いだしたらもうダメ。せっかくのポール・スミス、出番が来ないままずっと寝かせることに。アレは悔しかった。まさに“はがねのつるぎ〞はなんとか買えたけど、「やっぱヨロイと盾もないとダメだ〜!」。でも総額いくらよ!?と考えると気が遠くなって。ファッションの最初の挫折のひとつですよね。時間をかけて、少しずつ装備を増やすしかない。それもゲームと同じく楽しい時間だったでしょうけど、当時の自分にはもどかしくて仕方なかった。ポール・スミスの服を難なく採り入れられるようになったのは20代後半でした。でもそのころは太っちゃって、また別の似合わなさに悩むのですが、それは完全に自分のせいです!
Photograph: Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling: Masahiro Tochigi(QUILT)