特別インタビュー
時代を映すアイドル。[後編]
~アンジュルムとハロー!プロジェクト、その歴史と現在~
2020.11.20
ハロー!プロジェクト、通称ハロプロをご存じだろうか? これまで20年余りにわたって歌と踊りのライブパフォーマンスを中心に据えたエンターテインメントを提供しつづけ、世代を超えて愛されてきた女性アイドル集団である。現在はモーニング娘。’20を筆頭に、5つのグループと今後のデビューを目指す研修生が活動中だ。そのなかでも特に「女子のあこがれ」としての存在感を強めているアンジュルムから、4人のメンバーがシックな秋の装いでお目見え。
これまでどおりの活動ができない状況にあって、アイドルとファンをつなぐ回路としてますます大きな役割を担うことになったのが、ネットを利用した発信だ。ハロプロも最近になってTikTokに各グループの公式アカウントを開設。Instagramではグループに加えて、アンジュルムからは佐々木とリーダーの竹内朱莉、サブリーダーの川村文乃の個人アカウントも開始されるなど、それぞれのセルフプロデュース能力が発揮される場面は増える一方だ。
たとえば6月初めにYouTubeの公式チャンネルで公開され、現在22万再生を超えているミニ動画「アンジュルム伊勢鈴蘭のナイトルーティン」は、船木 結が後輩の伊勢に提案して制作されたのだという。
「みんなが〝踊ってみた〞動画とかをあげてたから、自分も何かやりたいなと考えて。でもそのとき、自分の携帯がバッキバキに割れててカメラが撮れない状態だったんですよ。それで鈴蘭にお願いして動画を送ってもらって、私が実況と字幕を担当してます。編集も自分で色みとかを変えたり、こだわりました」(船木)
歌と踊りの研鑽(けんさん)を重ね、ファンを楽しませるためのアイデアを絞り、いつもとびきりの笑顔を届けてくれる彼女たち。しかし、若くして人前に立つ女性として、不特定多数の人々からあこがれのまなざしを向けられる経験には、誤解されたり口さがない批判を浴びせられたりする危険もついてきてしまう。
「10のコメントがあったとして、ひとつ悪いコメントがあると、それがいちばん響いたりすることもあったんですけど、それよりもまず私たちを知ろうとしてくれて、褒めてくれたり優しいコメントを投げかけてくれたりする人がいるので、そういう好きでいてくれてる人たちの言葉を大切にしたいなって思います」(笠原桃奈)
「いまはSNSが発展したことによって、芸能のお仕事とか関係なく、みんなにそういう危険が身近になっちゃった世界だなと思うので。人に伝える前、シェアする前に一回考えて発信することが大事だなって思いますね」(船木)
周囲からの期待と自分の個性を高いレベルですり合わせることも必要だ。以前、笠原が一部のファンから寄せられた「メイクが濃い」という意見に対し、これからは年相応を目指しますと発言した際、ファンからもメンバーからも「いまのまま好きなようにすればいい」と擁護する声があがった。
「ファンのかたにもそれぞれ理想があって、どうしたらいいかわからなくて悩んでたのが中学生のころ。それでそういうことを発信して。それもいま思うと子どもだったなと思うんですけど。でも、そこで予想以上に自分が好きなメイクをしているのを愛してくれる人がすごく多いんだっていうことに気づいて。それはうれしいことですし、そういう人こそ大切にしたいと思います。けど、自分のやりたいことだけで突っ走ってもよくないっていうか……。そこは課題ですね、これからも」(笠原)
「もし全員が『こっちのほうにしてほしい』って言うなら、それはさすがにちょっと考えるんですけど(笑)。ファンのかたの意見もいろいろあるなかで、自分が理想のスタイルを見つけて、それに近づくところを応援してくださるかたがいらっしゃるので、そういうかたに向けて自分磨きをもっともっとがんばりたいです」(船木)
すごく真面目で聡明、そしてタフであろうとしているプロのエンターテイナーだ。まだこれから何でもできるし、何にでもなれる。そんな彼女たちがいま、この瞬間ひとつのチームとして立ち、仕事仲間としての信頼関係を築いて、パフォーマンスに打ち込んでいる。そこにグループアイドルの醍醐味(だいごみ)がある。そして彼女たちは、まだまだ現状に甘んじることをよしとしない野心を持っている。
「横浜アリーナとか、さいたまスーパーアリーナとかに立ってみたいって夢はずっと持ってます。演出だとトロッコに乗ってみたい! トロッコに乗ってサインボールを投げるのが夢です」(上國料)
世の中全体が先行き不透明な現在、その明るく楽観的な未来のビジョンは、目の前に垂れ込めた暗雲に光を差してくれるような気がする。まずは心に大きな夢を思い描かなければ何も始まらないし、それぞれに似合うパッと華やかな衣装を着た人たちがいい曲を歌って踊る姿にはやっぱりワクワクさせられる。ステージに立ちつづけるハロプロのアイドルは、そういうものすごくシンプルで根源的なエンターテインメントの効能を思い出させてくれるのだ。
上國料萌衣:ジャケット¥42,000、パンツ¥28,000/ともにソルトプラスジャパン(ソルトプラスジャパン 06-6943-2535)、シャツ¥52,000/メランポ(H3O ファッションビュロー 03-6712-6180)、靴¥22,000/ビルケンシュトック(クオリネスト 03-6427-1977)、佐々木莉佳子:ベスト¥39,000、ブラウス¥36,000、パンツ¥39,000/すべてウジョー(エム 03-3498-6633)、靴 スタイリスト私物、笠原桃奈:ジャケット¥48,000、ワンピース¥45,000/ともにエズミ(リ デザイン 03-6447-1264)、靴 スタイリスト私物、船木 結:ワンピース¥230,000、トップス¥18,000 /ともにエズミ(リ デザイン 03-6447-1264)、靴¥92,000/ビィウィッチ(ビィウィッチ 03-5726-9750)
野中モモ
翻訳者(英日)・ライター。著書に『野中モモの「ZINE」小さなわたしのメディアを作る』(晶文社)、『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』(筑摩書房)。訳書にレイチェル・イグノトフスキー『世界を変えた50人の女性科学者たち』(創元社)、ロクサーヌ・ゲイ『飢える私 ままならない心と体』(亜紀書房)など。現在『GQ JAPAN』ウェブ版にてコラム「モダン・ウーマンをさがして」連載中。
Photograph: Yuki Okishima
Styling: Chie Akai
Hair & Make-up: Akemi Ezashi(mod's hair), Miku Shigeyama
Text: Momo Nonaka
Edit: Tetsuya Sato