特別インタビュー

株式会社オプティム代表取締役社長
菅谷俊二インタビュー[前編]
ニッポンの社長、イマを斬る。

2020.11.24

株式会社オプティム代表取締役社長<br>菅谷俊二インタビュー[前編]<br>ニッポンの社長、イマを斬る。

「ネットを空気に変える」をコンセプトに2000年に創業した株式会社オプティム。代表の菅谷俊二は少年のころからの発明好き。「農業×IT」や「医療×IT」「建設×IT」などあらゆる産業にAIやIoTの技術を掛け合わせた「〇〇×IT」の黄金式で世界を変えていく。

AIで新しい産業を創出する

「その昔、エジソンが白熱電球を発明し、電力会社が生まれ、夜の世界が広がりました。われわれがフォーカスする第四次産業革命も同じくらいインパクトのあること。電気が登場したときのようにAIやIoTで新しい産業を生み出したい。この世界をプラスに変えていきたいんです」

菅谷俊二率いる株式会社オプティムは創業以来、20期連続で過去最高売上高を更新中だ。特許出願数が900を超える同社の事業はひと言では説明しがたい。国内初のルーターの完全自動設定技術を開発し、端末管理システム(MDM)では№1の市場シェアを持ち、コロナ下で無償提供した『オンライン診療ポケットドクター』も話題になった。はずせないのはAIで減農薬栽培を効率的に行う『ピンポイント農薬散布』の取り組みだろう。「実は、こんなに奇麗な発明は珍しいと感じますね。AIでいちばん変わるのは農業ですから」。もとは農学部出身。「農家の労力と収益の構造ギャップ」を感じた菅谷はいま、その先鋒に立っている。

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孫正義の買収を断り、23歳で起業

小学校低学年でプログラミングを覚え、ゲームを作って友達に売る。電子工学に興味を持ち、発明コンテストで佳作を取る。菅谷俊二はそんな才気走った少年だった。それゆえ学校の勉強には深い意味を見いだせず、受験には身が入らなかった。

「農学部には興味があったんですよね。バイオテクノロジーだったり、世界が大きく変わるような何かを学べるんじゃないかって」

地元の神戸から佐賀大学農学部に入学した。現場は想像以上にきつかった。

「なんて地味で大変なのかと。40℃近い夏の日はビニールハウスの室温が60℃くらいになります。そこに入って葉っぱの生育状況を計測する。こんなに労力がかかって、人が生きるために必要な産業なのにもうからないとは何なのかと。一方で、この構造ギャップにチャンスはあるのかもしれないとも思ったんです。このときは農業よりもITの世界にどっぷり浸かって、いったん休学してしまうのですが(笑)」

当時の菅谷は中高時代の仲間たちとネットビジネスを始めたばかりだった。東京まで営業に行くもホテル代はなく真冬に土管の中で寝た。そんな日々を続け、大学3年になった2000年、同じ仲間とオプティムを創業。スタートは動画広告の配信サービスだった。

「これはあまりうまくいかなかったんですけどね」、菅谷は笑うが語り草となっているエピソードがある。同サービスは起業前にビジネスコンペで賞を取り、ソフトバンクの孫正義から声がかかったのだ。「数億円で会社を売却するか、ソフトバンクグループと一緒にやるか」――。数億円の買収案件と土管で野宿する青年。その落差に聞いている側がたじろぐが、菅谷はあっさり断ってしまう。理由は「自分たちでやってみたいから」。

「お金よりも何より、経験そのものがワクワクすることじゃないですか。その年で孫さんに出会えたことを含めて。実際、起業してその後の6年間くらいは時給換算するとマックでバイトするより安いんじゃないかって感じでした(笑)。でも、楽しかったですし、もう一度戻っても同じ選択をすると思うんですよ」

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国内初! ルーターの完全自動設定を15人の会社が開発

2005年、飛躍のチャンスがやってきた。インターネット回線「フレッツ」を発表したばかりのNTTへ営業に行った。目的は別サービスの紹介だったが「それよりルーターを自動で設定できない?」と言われた。聞けば、コールセンターには『PCとルーターがつながらない』という声ばかり。「自動で設定できる技術があればいいんだけど無理だよね。ルーターは200種類もあるし」、担当者は雑談とばかりに締めくくった。当時はどこもそんな技術を持っていなかったのだ。けれど、菅谷は思った。「AIを使えば可能なんじゃないのか?」

これは大きなビジネスになる! 直感からルーターの完全自動設定技術にリソースを投下し、他の事業からは撤退。「桶狭間だぞ!」、15人足らずの社員たちと発破をかけ合った。年が明けるころ、努力は形になってきた。先方は半信半疑だったが200台のルーターがPCと次々つながるさまを見て歓喜した。その反応を見た菅谷もまた、歓喜した。「これは決まった!」。ほんの少しだけ、読みが甘かった。

「それまでNTTさんのような大企業とお付き合いしたことがなかったんです。だから、すぐに契約金が振り込まれるものと思っていて(笑)。いまならわかりますが、そう簡単な話じゃないんですね。『まずは半年から1 年は検証して』みたいな話になり、困ったぞと」

会社の資金は37万円まで目減りした。倒産が脳裏をよぎったころ、先方の幹部が訪ねてきた。窮状を話すのはためらわれたものの、ほかに方法はない。取引を断られることを覚悟したが、返ってきたのは予想外の言葉だった。「うちのせいで申し訳ない。すぐになんとかするから」と。

「その後、1週間ほどで契約が決まりました。あれがなければオプティムのいまはありません。動いてくださった方のためにも、NTTさんのためにも、絶対にプロジェクトを成功させようと思いましたね」 

06年に完成した同製品は『フレッツ簡単セットアップツール』などの名で流通し、1500万世帯のインターネット環境を支えた。このころより、オプティムは急成長し、メンバーも増えた。社内ネットワーク設定の煩雑さから生まれた『Optimal Biz』は端末管理システム(MDM)市場でシェア№1となり、現在も主力サービスとなっている。

後編へつづく>>

プロフィル
菅谷俊二(すがや・しゅんじ) 
1976年生まれ。兵庫県出身。2000年、佐賀大学在学中に「第1回ビジネスジャパンオープン」にて「孫正義賞(特別賞)」受賞。同年6月、「誰もがインターネットを空気のように使える社会」を目指し、中高時代の仲間とともにオプティムを創業する。14年、東証マザーズ上場、15年、東証一部へ市場変更。著書に『ぼくらの地球規模イノベーション戦略』(ダイヤモンド社)。趣味は発明で、1993年〜2015年の情報通信分野における日本人特許資産ランキングで第1位を獲得。中学時代は水泳部所属で現在も週に2〜3回はスイミングをする。いわく感覚は散歩と同じ。泳ぐのは頭を整理するのに役立つとも。佐賀大学農学部招聘教授。

アエラスタイルマガジンVOL.48 WINTER 2020」より転載

Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima

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