コート
ユナイテッドアローズが別注した、
マッキントッシュの「意志」あるコート。
2021.01.25
1823年、ゴム引きの完全防水布を開発し、誕生したマッキントッシュのレインコートは当時、世界最高クラスの機能服だったに違いない。雨や風をものともせず、過酷な気候下にあっても人々を守る防護服としての役割を果たし、軍用コートや乗馬服としても採用されたのは、その確かなスペックがあってこそ。はおるだけで描くシャープなシルエットは、英国スタイルの象徴として高いファッション性を備え、いまも紳士のワードローブにとってエッセンシャルな存在となっている。
誕生から200年、クラシックなゴム引きのレインコートはいまも当時と変わらない製法で作りつづけられているが、同時にマッキントッシュは先鋭的な機能服も手掛けている。それが三層のボンディング素材を採用したこのコートだ。「アルカイグ EX UA」は、もともとウィメンズで展開していた「アルカイグ」をユナイテッドアローズが特別にメンズパターンに別注したコートである。着丈の長い今風のゆったりしたオーバーサイズのシルエットに、袖口を絞った提灯(ちょうちん)型のスリーブ。フードと裾部分にはシルバースピンドルのドローコードを備え、アウトドア風のスポーティーなルックスを備えているが、なによりその生地こそが先鋭である。
採用されるポリエステル布は撥水加工が施されており、裏地との間に「eVent」と呼ばれる透湿防水性能を備える特殊なフィルムが圧着されている。これは高機能なスポーツウエアに用いられる構造で、外部から雨水の侵入を防ぎながら衣服内にこもった水蒸気を逃がしてくれるため、汗をかいても湿気が蒸散し、衣服内が蒸れにくく快適に着ることができるというものだ。梅雨時など高温多湿な日本では、雨はともかく、蒸し暑くて衣服内が汗でびっしょり濡れたままの不快な思いをしなくて済むのは非常に有り難い。曇天と小雨が続くロンドンでも、同じことを思うに違いない。
伝統的なマッキントッシュのエレメントも随所に受け継がれている。縫製部の裏から貼られている止水テープはオリジナルのネーム入り。脇下にベンチレーションホールがあしらわれているのも、機能としてよりクラシックなマッキントッシュコートの意匠を継承したものだ。ただしハトメのカラーがメタリックではなく、ボディーカラーと同系色となっている点は、ジップのバイカラーと同じく新たな仕様となっている。かたくなに「昔ながら」を貫くクラシックブランドが少なくない英国にあって、マッキントッシュは本来の伝統的な仕様を継承しながら確かな進化を遂げている。そこには「変わらないことへの決意」と、「変わることへの挑戦」という2つの強い「意志」が感じられる。
Text:Yasuyuki Ikeda