週末の過ごし方
都会に生まれた
3棟の連なる別荘暮らし。
【ニューノーマル時代の別荘探訪。】
2021.05.25
リモートワーク、多拠点、タイニーハウス……。ここ数年で、人々の「暮らし方」は一気に多様化した。そのなかで、かつて豊かさの象徴だった「別荘」は、どう変容しているのだろう。最新のケーススタディから、豊かな暮らしのニュースタイルを紹介します。
都市の別荘
東京都/設計:千葉学建築計画事務所
都心でも有数の豊かな自然を誇る東京・井の頭公園。その程近くに立つ〝別荘〞である。施主は、音楽業界で活躍する台湾のアーティスト。日本には仕事やプライベートでたびたび訪れ、親しい友人や知人も多い。ただ来日するたびに都内マンションの一室での生活を余儀なくされてきた。施主は「この街に家を持ち、楽しい時間を過ごすことが夢だった」と語る。求めたのは目の前に絶景が広がる眺めのよい場所ではなく東京の日常。設計した建築家の千葉 学さんは施主とのやりとりを振り返る。
「台湾と東京とで多少苦労しましたが交流を深めるうちに、スタジオで作曲したり、ジムでトレーニングしたり、家族や友人と食事をしたり、さまざまなシーンを場所ごとにスイッチするのが重要と理解しました。台湾から来日するのも彼なりのスイッチだと思う」
プランは、友人が泊まるゲスト棟、中央にはジムと音楽スタジオのスタジオ棟、そして施主とご家族が過ごす主人棟の3棟に分けて練られた。主人棟とゲスト棟はエントランスが独立しているが、滞在する人や形態によって、3棟の空間が幾重にも重なり合うというユニークな構成となった。
「家の隅々まで気に入っています。井戸がある小庭、森と小径(こみち)を眺めるテラス、景色を絵のように切り取る窓など、予想以上の感動でした」と喜ぶ施主。
「かつて別荘には、都会から離れ、自然を楽しむという単純な構図がありました。でもいまはその構図が多様化し、さまざまな要望に応える〝場づくり〞の視点が重要になっています」と千葉さん。
都会につくられた場が、新たな別荘の在り方を提示している。
Data
●所在地/東京都
●家族構成/夫婦+子3人
●竣工/2019年
●構造/RC造
●規模/地下1階、地上2階
●敷地面積/217.07㎡
●延床面積/166.54㎡
●千葉学建築計画事務所
Photograph:Koji Okumura(Forward Stroke)
Edit&Text:Satoshi Miyashita