お酒
岸谷五朗が綴(つづ)る
男と酒の物語。
2021.10.06
俳優・岸谷五朗が綴る小説に、そこからインスパイアされたビジュアルストーリーを添える本企画。コロナ禍の緊急事態宣言発令中に、一人の男が静かに酒と戯れ、誓ったこととは──?
酒と戯れる、最高時間に。
作・岸谷五朗
最近、朝が早い……。早い朝はたくさんの大切な時間をくれる。 若い頃からとにかく朝が嫌いで夜光虫であった私は、街が深い夜の帳(とばり)に包まれる頃から、本当の自分が目を覚まし覚醒し激しく活動的に思考も行動も動きだしたものだ。その分、当然朝がツラく、ダルく、気分も優れない。今でも、夜が好きなことに変わりがないのであろうが、少し違ってきた。夜が短くなってしまったから……。
人との「戯れ」が好きで、学生時代から仲間で集っては行動していた。まずは集合するところから始まる。小学生の頃は徒歩で、中学生になれば自転車で、高校生になればバイクで、大学生になれば車で、集合してから走りだすその目的地は近所の公園からゆっくり大人の階段を登ることと比例して距離を延ばし、当然東京を脱出、夏は海に海水浴、冬は雪山スキーへ! 集合しては最高の旅に出た。 瞳を閉じれば、友人たちの笑顔が尊い思い出の中で広がっていく。旅が好きなわけではない、どうやら「人」として生まれて「人」が好きなのだ。
人生で一番大切な瞬間は「生まれた時」とこの世に「生まれた意味」が分かった時。50歳に手が届かない私はまだ「その意味」に気付けていないだろう。だから、まだまだ走らなくてはならない。もっと遠くへ深く。