特別インタビュー

日本をベンチマークに! 本国イタリアから『マセラティ』を託された男

2021.10.20

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国内外の名だたる自動車メーカーで経営手腕を発揮してきた木村隆之氏が、今度はイタリアの高級スポーツカー『マセラティ』の変革に乗り出した。本国でも期待される日本市場をどう切り開くのか。今年7月にマセラティ アジアパシフィック地域統括責任者に就任したばかりの木村氏に、マセラティ紀尾井町でお話を伺った。

日本での認知度が高いのはなぜなのか

「東京にヘッドクォーターを置く輸入車ブランドは珍しいんですよ。アジアパシフィックなら上海や香港、あるいは地の利の面でシンガポールに置くのが普通。日本への期待の表れでしょうけど、その点も『マセラティ』の面白さだと思いますね」と木村隆之氏は言う。

国別売上ではアジアパシフィック(※中国を除く)内の日本・韓国・オーストラリアはトップ10の常連。日本は最高で2位になったこともある。本国イタリアのCEOからは「マセラティのクラフトマンシップを理解するのはイタリア人と日本人だ」とも言われた。

「日本市場でのブランド認知度は高いんです。マセラティのように値段がそれなりで購入層も限られる車はどこの国であろうと一般にそれほど知られているものではありません。けれど、日本では『イタリアン・ラグジュアリー・スポーツ』のブランドコンセプトがしっかりと浸透している。1970年代後半、日本でスーパーカーブームが起こりましたけれど、そのときの『マセラティ ボーラ』の印象が強烈に残っているからなのでしょうか」

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本国の日本への期待はさることながら、木村氏への期待も相当なものだろう。いくつもの車ブランドのビジネスを成功させてきた木村氏は、業界で知らない者はいないほどの人物である。1987年、新卒で入ったトヨタを皮切りに、その職歴は変容を続ける市場と共にあった。レクサスを国内ヒットに導いた後は、社長を務めた日産アジアパシフィックで年間販売記録を樹立(364000台)。この記録はいまだ破られていない。続くボルボ・カー・ジャパン社長時代も敏腕を振るった。赤字続きだった業績をV字回復させ、在任中の5年間で売上を1.6倍へ、利益を2.2倍へと底上げしたのだ。そんな輝かしい実績を誇る木村氏に、本社はどれほどの期待をし、それにこたえるべく、マセラティでどんな変革を考えているのか。

「マセラティはこれまでとは逆なんですよ」と木村氏は言う。過去に携わったブランドは車種自体のイメージが突出しているものが多かった。一方でブランド全体のイメージは完成されておらず、その構築に注力してきた。

「マセラティの場合、ブランドイメージは浸透しています。けれど、『ギブリってどんな車?』『クアトロポルテってどんな車?』というと途端に見えなくなるんです。ですから、僕がやるべきことは決まっていて、各モデルをどう固めていくか。どんなライフスタイルの方に使っていただきたいのか、どういうポジショニングに置きたいのか、しっかりと訴求していくことなんですね」

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マセラティはMEブランドじゃない

本国からの課題はもうひとつある。マセラティという車の機能や品質への信頼性が、ラグジュアリーカーを選ぶお客さまの期待に沿ったものであることをしっかりと伝えることだ。「ユーザーがマセラティを購入する決め手は、まずは『カッコ良さ』。それは、ブランドとしてありがたいことです。いっぽうで、『機能や品質などのハード面はそれほど重視しないで選ぶ』という声もある」。いいイメージが定着したラグジュアリーカーならではの悩みともいえるが、ハード面の信頼性を伝えるのは次のステージに進むために不可欠である。「十数年前に比べると、機能も品質も格段に上がっていますからね。日本がベンチマークになるように、イメージを変革してほしいと言われています。これまでのラグジュアリーカーには自己主張の強いMEブランドが多い印象があるかもしれませんが(笑)、マセラティは少し事情が違う。先日イベントがありましたが、ファミリー層も少なくなかった。車好きの集まりにお子さまを連れて来るお客さまは珍しいのですが、マセラティというブランドのカラーが出ていると感じましたね」

人気のSUV『レヴァンテ』に続き、来年は新型SUVを発売する。ブランドの購買層の中央値は50代前半だが、新モデルではそれより下の世代と女性層の開拓を狙う。「価格帯が抑えめで何よりボディサイズがいい。輸入車の購入は日本では東京首都圏が最も多いのですが、駐車場や道路の事情などのボトルネックもあります。発売予定の新型SUVはその点を解決できると期待していますね」。市場ポテンシャルの高い日本において、マセラティを「街なかで見かける率」を増やしていきたいと言う。

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数千万円のものを衝動買いなんてクルマ以外にありません

自動車販売はサービス業というのが木村氏の持論である。着任したばかりの頃、マセラティのディーラーにはこう告げた。「お客さまが自分たちの接客をどう感じるか。比較対象は高級ホテルや高級レストランかもしれない。ブランドビジネスとしておもてなしに取り組んでほしい」と。コロナ禍で顧客の来店率は減少している。けれど、来店したユーザーそのものの成約率は上がっている。「多くの方はネットで検討してからショールームに来られます。店頭でしか体感できないことをいかに演出していくか。新規のお客さまでも良い接客で購入に結びつきやすくなっている。ディーラーの対人感受性がますます必要になってくる時代だと思いますね」

業界歴は30年を超えた。一時期ファーストリテイリングで柳井社長と仕事をしていた時期もあったが、日産から重職のポストの声が掛かり、車業界に戻った。自動車業界が好きですか? そう問うと、木村氏は破顔しながらこう答える。

「これほど面白い業界はないですよ。生涯で何に一番お金を使うかといえば、持ち家の次に車という方が多い。持ち家の場合は合理的判断になりがちですが、車はもっとエモーショナル。買う気はなかったのに、数百万円や数千万円のものを衝動買いするなんてほかにありません(笑)。同時に、クルマ業界には商売の多くがあります。製造販売はもちろん、オーナーさまになっていただいた後のメンテナンスやリペア、保険やファイナンス。バリューチェーンで奥が深い、この業界が好きですね」

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プロフィル
木村隆之(きむら・たかゆき) 1965年生まれ。1987年大阪大学工学部卒業。同年トヨタ自動車に入社し、海外事業やレクサスの国内立ち上げに携わる。07年ファーストリテイリングでのユニクロの営業副本部長を経て、08年日産自動車入社。インドネシア日産、アジアパシフィック日産、タイ日産でそれぞれ代表取締役社長を務める。2014年ボルボ・カー・ジャパンの代表となり、20年までの社長在任期間中に売上を1.6倍にした。211月、グループPSAジャパン代表を経て、本年71日よりマセラティ アジアパシフィック地域統括責任者に。ノースカロライナ大学MBA取得。

Photograph:Kentaro Kase
Text:Mariko Terashima

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