特別インタビュー
BEENOS株式会社
代表取締役 執行役員社長 兼 グループCEO
直井聖太インタビュー[前編]
ニッポンの社長、イマを斬る。
2021.12.17
毎日、中国から後追い企業が現れる
2008年、子会社tenso(旧・転送コム)の立ち上げに携わることになった。いまでこそグループをけん引する企業だが、当初は「とりあえず、やってみよう」くらいのノリだった。
「日本のECサイトって海外発送しているところがなかったんですね。それを代理で行う事業を在外日本人に向けてスタートしました」。
しばらくすると日本好きな外国人からの購入も目立つようになった。ただ、困ったのが中国語での問い合わせだ。当初のメンバーは直井を含め、返信できるほどの中国語スキルはなかった。隣の部署の台湾人に助っ人を頼んだが、次第に回らなくなってきた。
「オフィスの下にコンビニがあったんですけど、接客の素晴らしい中国人店員がいたんですね。こちらが注文する前に目当てのたばこを出してくれたり、どういうわけかコーヒーをごちそうしてくれたり。『なんなんだ、このホスピタリティーの高さは!』ってすっかり気に入ってしまった。それでスカウトしたんです(笑)。彼はいまもうちの会社にいますよ」
ある日のこと。大量の出荷作業につき、多数の社員と共に直井自ら倉庫に出向いた。段ボールを開くと象印のマホービンだらけ。「なんでこんなに?」。同商品の「爆買い」が世間をにぎわしたのはそのしばらく後だった。越境ECにはヒットの息吹が詰まっていた。
ともあれ、事業は右肩上がりで伸長していたが、直井は同時に危機も感じた。
「サービスをまねた会社が中国から次から次へと現れたんです。それこそ1日に1社くらい(笑)。日本の場合、先行逃げ切りというのか、市場競争は意外と起こりにくい。一方の中国は淘汰(とうた)されるまで終わらないんです」
果たして1年後はどうなるか。なかには「手数料一切なし」を謳(うた)う会社もあった。『転送コム』のサービスは言ってしまえば発送代行に尽きる。決済手段はコンビニやクレジットなど日本市場向けの対応で、多言語のカスタマーサポートはあっても商品サイト自体は日本語のまま。各国のユーザーが別ツールで解読しているような状態だった。であるならば、と考えた。「商品ページを多言語で翻訳し、国ごとの多通貨決済まで対応できれば付加価値は必ず上がる」。そこからの動きは早かった。社員の半分を投入し2012年12月にはバージョンアップ版の『Buyee』をスタートしていた。
「何が良かったかというと、業績が上がっている最中に社員と危機感を共有できたこと。いいときに自分たちのビジネスを否定するって難しいですから。当時、五反田の30坪のレンタルオフィスで35人近くが仕事をしていたんですけど、『Buyee』のリリース後は110坪くらいのオフィスを借りられるようになりました。『密じゃない、空気がおいしい』『いや、すぐ人が増えるぞ』と言っていたら本当にそうなった。結局、半年ちょっとで移転しましたね」
プロフィル
直井聖太(なおい・しょうた)
1980年愛知県出身。明治学院大学経済学部卒業。2005年、コンサルファームのベンチャー・リンクを経て、08年BEENOS(旧ネットプライスドットコム)に入社。同年、グループ会社のtenso(旧転送コム)の立ち上げに参画し、越境EC関連サービス『転送コム』と『Buyee』を立ち上げてBEENOSグループの礎に。両サービスで海外配送や多言語カスタマーサポートなどオペレーションを構築した。12年、tenso代表取締役社長に就任(現在も兼任)。14年12月にはBEENOS代表取締役社長兼グループCEOに就任。20年10月、執行役員社長を兼任。かつては「経営者か歴史研究家か」と迷ったほど(?)の歴史好きだったが、社長業の多忙につきプライベートは縮小気味。休みの日に子どもたちと遊ぶか、たまのゴルフに行くかが数少ない息抜きだとも。
Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima