特別インタビュー
BEENOS株式会社
代表取締役 執行役員社長 兼 グループCEO
直井聖太インタビュー[後編]
ニッポンの社長、イマを斬る。
2021.12.24
予想外のものが売れるのも越境EC
コロナが騒がれはじめた20年2月、BEENOSグループは全面的なリモートワークに移行した。上場会社で2番目に早い断行だったが、同年9月期は過去最高益を達成。けん引力はやはり『Buyee』をはじめとする海外向けのEC事業だった。インバウンド需要は消えたが、ステイホームで世界のオタク化は進んだ。特に、アメリカの伸びは顕著で日本のアニメやゲーム関連グッズはよく売れたという。その一方、予想外の商品がヒットするのも越境ECの特色で、工作用のハサミやドライイースト、釣り具なども21年上半期の上位ランキングに入っている。
「SNSを通じ、海外でバズった商品が突然売れだすこともある。アメリカに100人しかファンがいなくてもその100人が熱狂的ならビジネスになる世界なんです」
課題もある。島国だけに海を越えなければならず、物流面では他国よりも不利だ。日本のグローバルECの発展は国全体で考えていくべきことだとするが、一方のBEENOSは独自に物流ルートを構築してもきた。
「そこは規模の原理で、流通の総量が増えてきたタイミングで物流への投資を始めたんです。今回、コロナで飛行機が飛ばない、モノが行き来できない時期があり、サービスを停止する競合他社さんもいました。うちが継続できたのは独自のルートがあったから。例えば、コンビニ受け取りが主流だった台湾では現地のファミリーマートさんとパートナーシップを組んでいました。その国ごとの物流状況に合わせ、効率的な配送の仕組みを築いています」
グループの創業から22年、直井が代表に就任し、グローバルに舵を切ってから7年が経つ。越境ECの代表のように語られることも多いが、そこに集約されるだけの企業ではありたくない。モットーは業績が伸びているうちに否定し、再び脱皮すること。
「いまが創業期くらいに思っていますね。原点に立ち返ってマーケットファーストの視点に立つ。日本発の商品を届けるだけではなく、海外のマーケットに対して何を提供できるか。社内にはエンタメ事業もありますし、リユース事業もある。足がかりとなる世界への地盤ができてきたからこそ、いまが
スタートラインだと思っています。まったく別の会社に生まれ変わるくらいの感覚で挑戦していきたいですね」
若者は自分の進化バージョンである
さて。今年のクリスマスで41歳になる。生き急いできました、直井は笑うがスピードを落とすつもりはないようだ。「年を取るほど落ちていくのがスピードです。意識しているくらいがちょうどいいんです(笑)」。テンションが落ちたときは歩くのも少し遅くなる。そんなときはあえて早歩きをし、自身を奮い立たせるという。肝に銘じていることがもうひとつある。若者は自分の進化バージョンだということ。
「生物学的には20歳下であれば進化しているわけです。寿命ひとつ取っても、いまのシニアと若者とでは違いますよね。であれば、自分よりも彼らのほうが絶対優秀なんですよ。『最近の若い者は〜』って、いつの時代でも言われてきたわけですけど、予想外の答えが返ってきたら『そう来るか!』と違いを楽しむ。そのほうが自分も幸せになれるじゃないですか。これ、僕ら世代のテーマだと思いますね(笑)」
プロフィル
直井聖太(なおい・しょうた)
1980年愛知県出身。明治学院大学経済学部卒業。2005年、コンサルファームのベンチャー・リンクを経て、08年BEENOS(旧ネットプライスドットコム)に入社。同年、グループ会社のtenso(旧転送コム)の立ち上げに参画し、越境EC関連サービス『転送コム』と『Buyee』を立ち上げてBEENOSグループの礎に。両サービスで海外配送や多言語カスタマーサポートなどオペレーションを構築した。12年、tenso代表取締役社長に就任(現在も兼任)。14年12月にはBEENOS代表取締役社長兼グループCEOに就任。20年10月、執行役員社長を兼任。かつては「経営者か歴史研究家か」と迷ったほど(?)の歴史好きだったが、社長業の多忙につきプライベートは縮小気味。休みの日に子どもたちと遊ぶか、たまのゴルフに行くかが数少ない息抜きだとも。
Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima