週末の過ごし方
『13の理由』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #13
2022.02.17
テープに秘められたメッセージとは?
クレイは密かにハンナに恋をしていた。ハンナが関わった13人の人物について語られる片面ずつのエピソードは、いずれも知らないことばかり。物語は現在と過去を行き来しながら、ハンナがなぜ死を選ぶことになってしまったのかを、クレイと共に追ってゆく。秘密を知るたびに塗り変えられる真実。ミステリー要素も相まって、早く続きが知りたくなってしまう中毒性のある作品だ。
テープの語り主・ハンナの視点が、必ずしも真実というわけではない。それが物語をより複雑にさせる。人はみな少なからず表と裏を持ち合わせていて、見えているものが真実ではないことも多い。学校というディストピアのなかで、逃げ場がなく、選択肢も知らない未熟なティーン世代。小さな傷の積み重なりが、やがて大きな存在になり追い詰められてゆく。そばに信頼できる大人がいれば……、あのときこうしていれば……、皮肉にもそれを知ることとなってしまう。
ハンナがカセットテープを選んだ理由は、デジタル世代に対しての批判ともとれる。これらの言葉を簡単に取り扱ってほしくないからこそ、すぐに消去できるデジタルデータではなく、リアルな重みを実感してほしかったのかもしれない。
クラシックなマスタングに乗り、「いつだって昔がいい」というセリフの後にJOY DIVITIONと書かれたカセットテープを挿入し走りだすシーンがある。サウンドが80〜90年代中心なのは、デジタルネイティブ世代が抱えている問題を、大人たちに親しみやすく伝える手段として意図的に使用しているのだと思われる。大人たちはいま、ネットとリアルが入り混じった彼らの現状を知る必要がある。そう感じずにはいられなくなるだろう。
登場人物ひとりひとりにスポットを当て丁寧に描かれてゆくため、視聴者は誰もが誰かに感情移入できるはずだ。そして視点が変わるごとに複雑に絡まっていた誤解が解かれてゆく。相手を思いやる気持ちというのは、時に忘れがちになってしまうことも。何げないひと言が、相手にとっては大きな傷になりうるということを日々心していたい。
できれば精神的にゆとりがあるときに観るべき作品ではあるが、ミステリー×青春×社会派と異例な組み合わせが織り成す、かなり完成度の高い作品だ。彼らが誰かのために奔走する姿は、きっと孤独を感じている人たちの支えになってくれるはず。そしていつか誰かのために。
Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo