週末の過ごし方
「真剣」じゃないと見えないもの。
2022.04.01
「刀剣には自分が映る」らしい。そんな神秘性にひかれてか、日本や海外の富裕層には日本刀の熱狂的なコレクターが多い。「誰も持っていないもので知識欲を満たしたいという方が多いですね」教えてくれたのは、奈良の刀匠15代河内守國助(かわちのかみくにすけ)の家に生まれ、日本刀の文化存続に尽力する河内晋平氏(株式会社studio仕組)だ。
「刀は斬(き)れる形を追求するなかで生まれた形。人間工学的に無駄がない。前後左右に身体感覚が乗るのがいい。いい刀は持ったときにパッと“すごい!”となります。人さし指の感覚が切先に来るんですよ」
試しに刀を持たせてもらう。反射的に「こわい」と感じるが、刀に合わせて自然に体の軸が整い心が鎮まってくる。刀身に目をやると神々しく美しい!
「日本の三種の神器は、鏡・剣・勾玉(まがたま)。すべて光っています。人智を超えているのが光。人って本能的に光るものは見ていられるんですよね。刀の地鉄(じがね)(※1)は光って鏡のように見えるから、自分が映るんですよ。刃文(はもん)(※2)から浮かぶ景色は自分の状態によっても変わります。山に見えたり、川に見えたり。昔の人はこれをずっと見ながら何かを感じたんでしょう」
刀剣は、われわれでも持てるんでしょうか?
「もちろんです。ワンルーム住まいでも好きが高じて購入する方もいます。現代に合った形で楽しんでいいと思います。まずは美術館に行って興味が持てるか試してみてください。刀は廃刀令の後も美術品として残された。そんな武器、ほかにないですよね。古い刀は由緒あるものでも200万円程度で手に入ります。現代刀はもう少し値がしますが、千年後に残る刀のオーナー第1号になれます。自分は千年のバトンを受け取った管理人に過ぎないと思えれば、生活は豊かになります。明日会議があってしんどい、なんて目先の小さいことにクヨクヨしても仕方ないなあと思えますよ。この時間感覚がなければ、サステイナビリティもわからないはず」
かつて刀を作る砂鉄を手に入れるために山を壊した歴史もあった。刀の力には表と裏がありますよね。
「そのとおりです。でも刀を持つ人なら長い時間の一部に自分がいることがわかる。刀を人前で抜いて力をひけらかす必要はなくなるんですよ」
――真剣の道は奥深い。
(※1) 鋼(はがね)を折り返し鍛錬することで生まれる鍛え肌(きたえはだ)と呼ばれる模様。
(※2)刀身の刃のほうに生まれる白波のような模様。手元で刀を光にかざすことでやっと複雑な形状を鑑賞できる。
Photograph: Ryohei Oizumi
Text: Sayaka Umezawa (KAFUN INC. /MOIKA GALLERY)