週末の過ごし方
お江戸カルチャーを100年先もこの地で。
大手町の日本旅館「星のや東京」が挑むソーシャルグッドな試み。
2022.06.30
江戸時代から続く老舗の魅力について理解を深める
「星のや東京」周辺の神田・日本橋・人形町には江戸時代から続く老舗が数多くあり、「山本山」の煎茶や「江戸屋」のブラシ、「戸田屋商店」の手ぬぐいなど、品質の高い逸品たちがホテル内で数多く採用されている。ここまでは都内のほかのホテルでもよくある話なのだが、「星のや東京」には「お江戸マイスター」というコンシェルジュ的なサービスが存在。これら老舗の品々の魅力をゲストに丁寧に紹介し、実際に店舗や工房の巡り方まで提案してくれるのだ。地域を活性化させ、その土地の文化を現代、そして未来へと継承していく。このような活動を通年無料で取り組む姿は、まさにソーシャルグッドと呼ぶにふさわしいものだ。
せっかくなので私もお江戸マイスターの方をつかまえ、「佳(よ)いもの(館内に置かれた逸品たちのことを、スタッフは愛情を込めてそう呼ぶ)」をいろいろと案内していただいた。なかでもひと際美しかったのは、「華硝」の江戸切子だ。江戸切子とは、その名のとおり江戸時代の末期に日本橋で誕生した伝統工芸。色付きガラスをカットし、繊細な紋様を表現する。ホテルから華硝の日本橋店までタクシーで数分とのことなので、住所を教えてもらい実際に足を運んでみた。2008年の洞爺湖サミットの際に各国の国賓に贈られたというワイングラスをはじめ、芸術作品のような切子が並ぶ。まるでミュージアムのような空間。しかし、かつては40近い江戸切子の工房が東京にあったそうだが、今では年々減少に転じているという。「伝統や製作過程を知ることでその価値や魅力を再発見していただけたらと思っています。江戸の文化を大切にするだけでなく、ずっと先まで伝えていきたいです」とお江戸マイスターの尾中さんは話す。
ちなみに館内にいながらでも、お江戸マイスターの手ほどきのもと、製作体験できるものがある。「小津和紙」の和紙を使った「和綴(と)じ本づくり体験」は、表紙選びから始まり、針や糸、とんかちを使って自分だけの和綴じ本を製本する「星のや東京」らしいアクティビティだ。1時間ほどで製作でき、おみやげとして持ち帰りが可能。ほかにも江戸の風習を伝える催しとして、茶道や香道といった伝統文化の体験から、ビルの屋上で行う剣道の朝稽古(かつて江戸に道場があったことに由来)のようなユニークなものまで、1泊2日では堪能しきれないほどアクティビティは充実している。