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「World Oceans Day」に生江史伸氏が登壇
彼が語る「海藻の重要性」とは?

2022.08.26

「World Oceans Day」に生江史伸氏が登壇<br>彼が語る「海藻の重要性」とは?

先ごろ行われた、国連の「World Oceans Day(世界海洋デー)」において、さまざまな海洋関係者にまじって、東京の三ツ星レストラン「レフェルヴェソンス」のシェフ、生江史伸氏が、世界7人のパネラーの1人に選ばれ、登壇した。テーマは海藻についてだ。レフェルヴェソンスは、世界的に、ホスピタリティーや食文化を大切にするホテル・レストラングループ「ルレ・エ・シャトー」に属している。ルレ・エ・シャトーは、食を通じてよりよい社会や環境の構築に対しても熱心に活動を続けている。そうしたなかで、世界海洋デーへ向けて何かできることはないかと模索しているときに、生江氏に白羽の矢が立ったのである。

また、それとは別に、「シーウィードシンフォニー」という海藻の認知度や利用を上げるための、世界のレストランの活動のなかで論文を書いていた生江氏は、そのまま、世界海洋デーのテーマを「海藻の重要性」としたのだそうだ。国連からは、日本を代表するシェフであると同時に、生産者と消費者をつなぐ仲介役――キーパーソン――としても話してほしいとのリクエストもあったという。

自身もダイバーとして海に潜る生江氏は、ベテランのダイバーや漁師などから聞く話もまじえ、海藻が危機に瀕していることを肌で感じていた。海洋資源というと、魚介のことにばかり目がいきがちであるが、海藻も海を健全な状態に保つには、大変に重要な役割を担っているということを世界に訴えたと思ったのだ。

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スピーチのなかでは、海藻がダメージを受けているいちばんの原因は、温暖化による、海水温の上昇だと言っている。「例えば、わかめなどは、胞子が発芽する時期に18℃を切っていないと、うまく繁殖しないんです。一昨年は、18℃を上回っていたので、収穫量が激減しました。けれど、昨年は、ラニーニャ現象で水温が下がったため、ある程度復活しました」と、自身も豊漁だったわかめ船にのって、ビッグスマイルをしている写真を見せて、会場を和ませた。

このように、海水温に大きな原因があることは証明されたわけだが、海水温が上昇することで、冬場は冬眠していたウニやそのほかの魚が活動を続け、昆布を食べ尽くしてしまうというような、生態系の変化もおこってくる。結果、海藻がなくなると海藻を餌にしている小型の魚がいなくなったり、産卵場所が消失したり、その捕食者である中型の魚がいなくなるという、負のスパイラルがおこってくるわけだ。

  • 400-(taken-by-Yasuko-Takada)
  • 400_山山椒

「日本では数千年の昔からあたりまえのように海藻を食べてきていますし、私自身も、フレンチがベースの自分の料理のなかにも、出汁をとったり、海の風味を強めたりと、さまざまな目的で海藻類を多用しています。そんな海藻の大切さを、子どもたちに教えるワークショップを漁師さんたちとともに行うなどの活動もしています。各国でも医療や美容などの目的でも使われ始めていますが、世界全体でみれば、海藻資源の活用はまだまだです。上手な食べ方や利用法などを、伝えることも私の役目になってくるでしょう」。そうしたスピーチは、拍手喝采のもとにおわった。

また、生江氏は、海藻を復活させるために温暖化の阻止を待っている時間はもはやないという。「人間が人為的に減らしたものに関しては、人間が人為的に養殖してやるしかないのです。ただそれを、わかめ漁師が養殖して採取して売り、経済を回すという小さな規模ではなく、ブルーカーボンといい、もっと大きな規模で行うべきです」と。つまりそれは、海藻類が二酸化炭素を吸収する量を、大量に二酸化炭素を輩出している大企業が、等量買い取るために大規模な養殖を行うということだ。世界ではすでに、こうした動きが出始めているので、ぜひ、こうした動きは積極的に進んでほしいものだ。

登壇後は、世界のシェフから、自分も海藻を料理に使おうと考えているし、養殖の大切さも考えているというようなメールをたくさんもらったという。世界に点在しているそうした考え方が線でつながっていけば大きな力になっていくことだろう。海藻のワークショップをやってほしいという依頼もいくつもきているそうだ。今年の8月という誘いはさすがに無理だったが、今後は、積極的に参加したいと思っていると生江氏は言う。日本のトップシェフの呼びかけが、こうして国連を通じて世界に広がり、海洋環境の改善に少しでも役に立つということは誇らしい限りだ。

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