週末の過ごし方
ゲストを和ませる清流も、実は発電システム!
星のや軽井沢が長年実践してきたソーシャルグッドな環境経営。
2022.08.26

社会によりよい取り組みを行うソーシャルグッドなホテルを、トラベルエディター伊澤慶一が紹介。vol.3では浅間山麓の自然に囲まれた山あいの地で、「谷の集落に滞在する」をコンセプトとした星のや軽井沢に滞在。そこには川と緑、そして野鳥をはじめとした森の生き物たちと100年を超える共生の歴史があった。
初めてなのに、どこか懐かしい。そんな第一印象で、星のや軽井沢の滞在はスタートした。水が流れ落ちる棚田や路地をつなぐ小さな橋、水辺を囲む離れの客室など、目の前には日本の原風景とも呼べる光景が広がっていた。棚田テラスの椅子に腰掛け、しばし敷地の様子を眺めていると、ウェルカムドリンクを運んできたスタッフの方が、この景観デザインについても説明してくれた。「もし西洋の暮らしに迎合しすぎない日本があったとしたら。もし和の文化が熟成を重ねて今を迎えていたとしたら。星のや軽井沢は、そんな仮想の『もうひとつの日本』を思い描いて創られています」
西洋に迎合しない、もうひとつの日本——。私は自分の胸の中で、これから始まる未知なる旅へ、急に期待が膨らんでいくのを感じていた。

星のや軽井沢が開業したのは2005年。当初から敷地内に自生する野生植物には極力手を加えず、自然と共生する道を選んできた。路地が複雑に入り組んでいるのも、もともとあった樹木や傾斜を大切にしてきた証拠だ。現在、客室は全部で77室。水辺に面した「水波(みずなみ)の部屋」、山側に位置する「山路地(やまろじ)の部屋」、戸建ての「庭路地(にわろじ)の部屋」の3タイプに分かれ、どれも間近に浅間山麓の自然を感じられる造りになっている。石垣や玄関が設けられた離れの建物は、まさに西洋に迎合しない、古き良き日本家屋の面影が漂う。室内にはあえてテレビは置かず、その分大きな窓から望む山麓や清流の美しい姿が、額縁に収められた絵画のごとく存在感を放っていた。

「水波の部屋」のテラス。ソファに体を預け、耳に心地よい瀬音を聞きながらのんびり過ごしたい。 「水波の部屋」の110号室。頭上に設けられた「風楼」と呼ばれる天然のクーラーが、夏場の節電にひと役買っている。
第一印象でノスタルジーを感じさせた星のや軽井沢だが、ソーシャルグッドの観点では実は時代の先を行く存在だ。近年、日本の観光業においてもようやくサステイナブル・ツーリズムの考え方が浸透してきたが、ここ星のや軽井沢では前身の「星野温泉旅館(1914年創業)」の時代から浅間山を源とする湯川から清流を引き込み、水力発電を導入。実に100年以上も前から、自然エネルギーの活用に取り組んでいる。現代表・星野佳路の就任以降、環境意識はより明確に高まり、今から30年前の1992年には具体的な環境経営のビジョンを策定。ゴミ資源化100%を目指す「ゼロエミッション」、自ら使うエネルギーはできるだけ自給する「EIMY(エイミー:Energy In My Yardの略)」、自然を守りながら観光資源として持続的に活用する「エコツーリズム」を三本柱として、星のや軽井沢だけでなく近隣の星野リゾート関連施設全体で活動を推進してきた。
ゲストの心を和ませる敷地内の清流は、この発電所で電力に変換。自然に寄り添う宿として、これ以上ないソーシャルグッドな発電システムを構築している。 こちらの水力発電以外にも温泉の排湯熱や地中熱を利用することで、星のや軽井沢は敷地内消費電力の約7割を敷地内で生み出している。
地下にある「地中熱交換井」。この中で水を循環させ、地中の熱を取り出し、ヒートポンプによって電力利用を可能としている。 「ゼロエミッション」を達成するため、客室内の水はウォータージャグで提供。ソープ類も個包装を廃止し、プラスチックゴミの削減を目指している。
こうしたソーシャルグッドな環境経営が好循環のサイクルをもたらし、星のや軽井沢のゲストはさまざまなアクティビティを通じて、豊かな自然と間近で触れ合うことができる。木漏れ日が心地よい早朝に開催される「のびのび深呼吸」や、路地の散策を楽しみ涼菓を味わう「緑陰散歩」など、敷地内だけでも圧倒的な非日常を体験できるのが星のや軽井沢の魅力だ。また、敷地のすぐ近くで自然観察ツアーを催行する「ピッキオ」も、1992年から軽井沢の環境保全に貢献。ツキノワグマの保護管理や、野鳥やムササビウォッチングのツアー継続が評価され、2005年には環境省による第1回エコツーリズム大賞も受賞している。自然を満喫したあとは、敷地内にあるゲスト専用の温泉「メディテイションバス」へ。光の部屋と闇の部屋、2つを行き来することで、瞑想の感覚を体験できる温浴施設。ここでも日常とかけ離れた、新しい入浴体験を味わうことができる。

清流にかかる太鼓橋。「緑陰散歩」では、涼菓と冷茶が入った竹籠を持って敷地内を散策。自分の好きな場所を見つけたら、ピクニック気分で涼やかに過ごそう。 「日本料理 嘉助」特製の梅あんみつと敷地内に咲く夏の花をイメージした上生菓子。暑い時期にぴったりの涼菓は冷茶とともに味わって。
ピッキオの自然観察ツアーの出発場所となるビジターセンター。野生生物の剝製や自然に関する資料が集まり、カフェも併設されている。 星野温泉の開湯は1915年、その歴史は古い。宿泊者限定の「メディテイションバス」は、露天風呂が開放的な「星野温泉 トンボの湯」とまったく異なる雰囲気。自分自身とゆっくり対峙する、そんな温泉だ。