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全英女子3位の渋野日向子、“心”変えて「V字回復」……
予感させる好調のビッグウェーブ。

2022.08.12

全英女子3位の渋野日向子、“心”変えて「V字回復」……<br>予感させる好調のビッグウェーブ。
写真:スポニチ/アフロ

前週の全英女子オープンで、今季女子ゴルフ海外メジャー戦の全5大会が終了した。結果を振り返ると、全米女子オープンを除く4大会で日本人選手がトップ10入り。米女子ツアーメンバーの畑岡奈紗、渋野日向子が各2回で、今季国内ツアー5勝の西郷真央が1回の計5回を数えた。これは、2013年にエビアン選手権がメジャー大会に昇格して以降、18年の4回を上回る日本勢最高戦績となった。

<今季海外メジャー 日本人選手のトップ10入り>
〇シェブロン選手権(1人)
渋野日向子4位
〇全米女子オープン(0人)
〇全米女子プロ選手権(1人)
畑岡奈紗5位
〇エビアン選手権(1人)
西郷真央3位
〇全英女子オープン(2人)
渋野日向子3位、畑岡奈紗7位

最終戦の全英女子オープンでは4月末から低迷していた渋野が復活。優勝したアシュリー・ブハイ(南アフリカ)、ブハイとプレーオフを戦ったチョン・インジ(韓国)に1打差に迫る通算9アンダーで3位に入った。戦いを終えると、目に涙を浮かべながら思いを語った。

「やり切ったかなとは思うんですけど……やっぱり、すごく悔しいです」

第3日を終え、首位のブハイに5打差をつけられていた。しかし、ジワジワと差を詰めて17番パー5のバーディーで1打差に迫った。3年前の2019年、同大会で樋口久子以来42年ぶりの日本人メジャー優勝者になった際は、笑顔を見せつづけたが、この日はそれを封印。硬い表情のまま一打に向き合った。しかし、頂点には届かなかった。メジャー優勝者ゆえに人一倍わかるメジャーの重み……。「惜しい」では、整理のつかない感情がわき上がった。

一方で、「何が違ったんだろう」とも言った。理由は、パロス・ベルデス選手権(4月28日~5月1日)以降は不振で、欧州での前2試合(エビアン選手権、スコットランド女子オープン)も予選落ち。その流れで、全英女子オープンを迎えた。名門ミュアフィールドでは初開催で、日本人選手は史上最多12人が出場。渋野は初日65で単独首位に立った。そして、最終日の最終18番まで優勝の可能性を感じさせた。技術的に何かを変えたわけではない。ただ、感覚と感情には変化が起きていた。

心の底から楽しみ、怒りを力に……「久しぶりの感覚」。

「先週(スコットランド女子オープン)は1日目にやっと1アンダーが出たにもかかわらず、2日目は自分のミスから引きずってしまいました。結局、エビアンとは違う落ち方ではあるなっていうのをいいふうに捉えて、先週の土曜日から練習も熱を入れてできました」

全英女子オープンが始まってからも「熱」は続いた。首位発進もあるが、ミスをした後の気持ちが違っていた。

「本当に心の底からゴルフを楽しめた感じはあったし、今日(最終日)は怒ってしまった場面はあったんですけど、自分のミスに怒って次のホールのティーショットに生かすっていうことが、最近はありませんでした。なんか、もう諦めてやっていたのが、怒りを力に変えられたのが久しぶりの感覚でした」

そのうえでこの言葉に実感を込めた。

「(優勝で)私自身が作られた試合でもあるし、初心にも戻ってできたのが良かったです。自分の心の持ちようによってゴルフが変わると思った4日間でした」

確かに渋野は、「心」で大きく変わるゴルファーだ。3年前、初めての海外試合でメジャー優勝を成し遂げた後は、「シブコフィーバー」に戸惑いながら、手にした自信を胸に国内で結果を残した。20年からは、目標を「5大メジャー完全制覇」に設定。同年12月開催の全米女子オープンでは、最終日を首位で出ながら、スコアを落として2打差の4位となった。そして、目に涙を浮かべて「この悔しい気持ちは米ツアーでしか晴らせない。絶対にここでまた戦いたいです」と言い切った。

その決意のまま、渋野はさらに大きな決断をした。プロテスト合格前から師事していた青木 翔コーチからの「卒業」だった。理由については「今まで青木さんに頼ってきてしまっていた分、自分自身を知ることがなかった」と明かし、スイングも大幅に変えた。トップの位置を右肩よりも低くし、体の回転と手や腕の動きを同調させる形だ。全ては米女子ツアーの難コースに対応するべく、「再現性の高いショットを打つため」だった。この改造に踏み切ったのには、オフにラウンドを共にした米男子ツアー経験者の石川 遼からの助言があったとも言われている。だが、コーチなしの状態でそれに踏み切ったのは、渋野に「強い心」があったからこそだ。

21年秋も同年初トップ10入りで自信、3週後に復活V。

21年になると、渋野は序盤から苦しんだ。日本でも海外でも結果を残せず、ゴルフファンのみならず、専門家からも「スイング改造は失敗。元に戻したほうがいい」との声が上がった。渋野も、会見では「(稲見)萌寧との差を感じました」「こんな私でも、まだギャラリーの方々が応援してくれている。泣きそうになりました」などと話すようになった。しかし、新スイングを愚直に継続し、9月の住友生命Vitalityレディス東海クラシックは4位で同年初のトップ10入り。その後の2戦は8位と5位で、迎えた10月のスタンレーレディースでは、木村彩子、ペ・ソンウ、佐藤心結(当時アマ)との4人でのプレーオフを制し、復活優勝を飾った。新スイングで手にした初めての勝利だった。

会見では新スイングについての「良くない評価」が耳に入っていたことも明かしつつ、こう言った。

「この新しいスイングで勝ったときに、ああじゃ、こうじゃ言っていた人を『見返してやりたい』という気持ちも、頭の片隅に置きながらやってきました」

その後も渋野は好調を維持し、同月の樋口久子三菱電機レディスでもプレーオフの末に優勝。12月の米女子ツアー最終予選会にも古江彩佳とともに通過した。念願だった世界最高峰ツアーの舞台。今季が1年目ながら、メジャー初戦のシェブロン選手権で4位、次戦のロッテ選手権では2位に入り、進化した渋野を印象付けた。

しかし、パロス・ベルデス選手権で今季初の予選落ちとなり、今季国内初戦となるブリヂストンレディスでも決勝ラウンドに進めなかった。「凱旋試合」の位置付けで観客の期待が高かっただけに、渋野も落胆。ショットは右へのミスが多く見られ、会見では「単純に体が伸び上がって、右にいったと想像がつきます」と説明した。

米国に戻っても復調はできなかった。だが、渋野はトレーニングを重ね、スイングの再現性を求め続けた。ショートアイアン、ウェッジでのショットは1ヤード刻みでターゲットを決め、距離感を磨いた。予選落ちは続き、全米女子プロ選手権では体調不良で第3日に棄権した。文字どおりどん底まで落ちていたが、突然のV字回復。再びのメジャー優勝に近づいた。

そんな渋野について、「よくわからない選手」と揶揄(やゆ)するゴルフファンも多いが、この若さで自力で立ち直り、トップレベルに返り咲く選手はそうはいない。フィジカル面も含め、それだけのポテンシャルがあるからこそ成せることで、つかんだ「自信」は大きい。好不調の波が大きいのが渋野なら、これから来るのは好調のビッグウェーブ。また、「世界のシブコ」がワクワクさせてくれそうだ。

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