カジュアルウェア
鎌倉シャツのボタンダウンシャツに受け継がれている
元祖アメトラのDNAとは?
ファッショントレンドスナップ155
2022.09.01
ボタンダウンシャツは、日本人が持っているシャツのなかではいちばんポピュラーなものだと言えるのではないでしょうか。学生からビジネスマン、白髪交じりのリタイヤ世代まで幅広く愛用されているシャツはほかにはありません。
こうした現象は世界中でもまれな現象で、このシャツを生み出した本家アメリカでは、一部のファッションに興味のある人や東海岸の名門大学(通称アイビーリーグと呼ばれる)を卒業したエリートが着用しているくらいで、街なかでの着用率は日本とは比べものにならないくらい低いようです。
実は、2020年にボタンダウンシャツを発明したアメリカントラッド(この後は略してアメトラ)の総本山ブルックス ブラザーズが、経営破綻したというニュースが飛び込み、ファンには寝耳に水、SNSでは「ブルックス ブラザーズはもう買えなくなるのか ?」といったうわさや妄想が飛び交いました。
(注)その後、本国のブルックス ブラザーズはアメリカのアパレル運営会社に買収され、辛うじて生き残ることに。日本のブルックス ブラザーズは、それとはまったく関係なくそれまでと変わらない経営を現在も続けています。
また前書きが長くなってしまいました……。
何が言いたかったかというと、ボタンダウンシャツの生みの親と言えるブランドが経営破綻するくらいですから、このクラシックなシャツはアメリカでは人気ガタ落ちだったということ。
今回はアメトラを愛するジェントルマンが、こだわりのボタンダウンシャツを着用してご登場。
「アメリカ人のデーヴィッド・マークスさんが2017年に出された『AMETORA』という本に、アメリカのトラッドスタイルは日本が救ったと書いていましたが、そのとおりですね。私はアメリカに留学していましたが、アメトラ的なファッションの学生なんて皆無でしたから。特に1960年代にピークを迎えたIVYスタイルは本国では絶滅寸前でした。クラシックなボタンダウンシャツを着ている人に出会うことは、ほとんどありませんでした。アメトラに関心を持つようになったのは、帰国してからです」と笑いながら語ってくれたのは、メーカーズシャツ鎌倉のプレスの川田真之介さん。
日本で1965年(初版)に出版されたアメリカ東部のキャンパスファッションをまとめた写真集『TAKE IVY』が、アメリカで2010年に英語版で発売されると、アメリカのファッション関係者やマニアが、自国の忘れ去られたスタイルを再認識。そして、日本に脈々と続くアメトラ文化と関連アイテムの多さに驚き、そこから逆に自国のモノづくり「Made in USA」を見直すきっかけになったほど。
日本でも2018年ごろからアメリカのそうした現象が徐々に逆輸入されたり、イタリアのメンズファッションの国際見本市ピッティ ウオモのスナップでアメトラを採り入れた人が目立つようになり、新アメトラのブームがファッション誌を中心に盛り上がってきました。
「今回着ているシャツは、鎌倉シャツのビンテージ アイビー コレクションのもので、1960年代のアメリカ製のボタンダウンシャツのディテールや生地をできる限り忠実に再現したものです。ベストを着ているので、わかりにくいのですが、こだわり満載なんです」と川田さんの熱弁が。
そのうちベストを脱いでシャツを見せようとしたので一旦ストップしていただき、スタイリングのポイントを伺ってみた。
「チルデンベストは秋のアメトラのスタイリングには欠かせないもの。シャツをストライプにすることで、ベストのインパクトをうまく打ち消しています。逆にシャツが無地だと、ベストが悪目立ちしてしまう可能性があります」と川田さんからアドバイスが。
アメトラのアクセサリーといえば、カレッジリング。今ではかなり廃れてきたようですが、アメリカの大学を卒業した人は、その大学オリジナルのカレッジリングをつけるのが習わしだったとか。
日本でアメトラやプレッピーがはやった80年代後半〜90年代にかけては、アメリカのビンテージのカレッジリングが注目されました。川田さんのリングもビンテージだそうです。
足元は、キルトのついたタッセルローファー。足の甲の部分が少し短めになっているアメトラ仕様。これが、ブリテッシュトラッド(以後ブリトラ)だとブラウンのスエードのチャッカーブーツあたりが鉄板。
今回の川田さんのスタイリングを見てもわかるように、アメトラとブリトラは、メインのアイテムがとても似ていますが、シャツや靴のチョイス次第でガラっとイメージが分かれます。なのでサブのアイテムのチョイスが、スタイリングのキモになると言えます。