週末の過ごし方
新たな発見を求めて――
ポーランド・ワルシャワの旅
2022.11.01
ハワイもいい、パリもミラノもロンドンも捨てがたい、NYもLAも、ソウルも魅力的。しかし、未だ終息をみないコロナ下、わたしたちの旅の選択基準は確かに変わった。一度ずつの旅を丁寧に吟味して、行く先をセレクトする。たどり着くのは、過去を振り返り、未来に想像を馳せる唯一無二の東欧の国。ポーランドの首都、ワルシャワはほかのどことも違う特別な街だった。
一面を黄色が埋める黄金の秋
第二次世界大戦後、戦火に見舞われ見る影を失くした旧市街を「建物のレンガのヒビ」に至るまで復元を重ね、1980年、『ワルシャワ歴史地区』として世界遺産となったポーランドの首都・ワルシャワ。クラクフ経由でアウシュビッツ強制収容所まで足を延ばせば、第二次世界大戦の悲惨さを思い知るとともに、見事に再現されたワルシャワの歴史地区に対するポーランドの人々の愛、情熱、忍耐、そして未来に馳せる想いを深く感じることができる。
この美しい首都は、毎年、10月中旬から11月にかけて、黄色一色に染まる。黄金の秋(ズウォタ・イェシェン)の始まりだ。
黄色一色の紅葉は潔い。日本のそれのように、さまざまな色合いを満喫できるものも素晴らしいが、青い空のもと、黄金に輝く紅葉はシック&クール。品格すら感じさせる。しかも黄金に染まるのは10日前後だけ。それ以前は、黄金色に染まりゆく街路樹を眺め、それ以降は枯れて茶色になった木々を眺めつつ、落葉した黄金のじゅうたんを満喫する。
長い冬を目前に、自然はわたしたちにご褒美をくれるのだ。
その舞台は、至るところに広がるが、そのひとつが、欧州一美しいとされる『ワジェンキ公園』。ワルシャワ市内中心部に位置するシンボル的公園だ。その広さ、実に76万㎡。一面、黄金に包まれて、わたしたちは無になる。野生のリスに遇えることも。
また、18世紀前半に国王アウグスト2世の提案により造園された『サスキ公園』や『ワルシャワ大学』周辺も黄金の秋を満喫できるスポットだ。
色づいた木々に包まれながら、ワルシャワを散策すれば、コペルニクスの像やショパンミュージアム、ショパンの心臓が埋葬される聖十字架教会、少し歩けばキューリー夫人ミュージアムなど、見どころも多い。「あぁ、ポーランドにはこんなに多くの偉人がいたのだ」と改めて思う。
特徴は酸味。個性的な空間でポーランドの味を満喫する
旅の醍醐味といえば食。ポーランド料理は、周辺の国々からさまざまな影響を受けたもので、ドイツ料理やロシア料理に近いとも言われる。
代表的なものは、肉とザワークラフトをじっくり煮込んだ『ビゴス』やビーフシチューに似たスープ『グヤーシュ』、ポーランド人のソウルフード、じゃがいものパンケーキ『プラツキ』など。なかでも、ポーランド料理といえば、『ピエロギ』がなじみ深いが、水餃子に似たこの料理、皮は分厚くモチモチ、あんは肉、ザワークラフト、チーズ、ジャガイモ、カスタードクリームやフルーツなどを挟んだデザート系などもあり、味付けは店によって異なるので、複数のレストランで食べ歩きしてもいい。
また、癖はあるが、ポーランドの味を堪能するなら、ライムギを発酵させてその上澄みを使用したスープ『ジュレック』をぜひ! デザートなら、チョコレートやジャムの入ったあんドーナッツ『ポンチキ』が名物。ポーランドでは、復活祭前の脂の木曜日はポンチキの日とされ、家族や友人とポンチキを愉しむほど身近なデザート。ワルシャワで食べずには帰れない。
総じて酸味の強いものが多いのが特徴で、いずれもポーションは多め。食を大切にする国民性がうかがわれる。
ゆえにレストランも料理はもちろん、内装やインテリア、カトラリーやプレートなどにそれぞれのこだわりがあり、その空間に身を置くだけでも未知なる体験にワクワクできる。レストランのみならず、カフェやバーも同様。今日はどの店に?と考えるのも楽しい。
ワルシャワがショパン一色に染まる『ショパン国際ピアノ・コンクール』
現存する国際音楽ピアノ・コンクールでは最古と言われるのが、5年おきに開催される『ショパン国際ピアノ・コンクール』だ。コロナ下一年順延となり、2021年に開催された第18回大会では反田恭平さんの2位受賞、小林愛実さんの4位受賞が、日本でも大きな話題となった。
本選開催はショパンの命日である10月17日前後3週間で、演目はすべてショパンのピアノ曲。本選に出場するまで、予備審査、予備予選(予備予選からワルシャワ)があり、その通過者がワルシャワでの3回の予備選を経て、本選出場となる過酷なコンクールだ。出場者たちの過酷な挑戦は、ドキュメンタリ―や映画、漫画などで見た人もいるかもしれない。
この時期、ワルシャワは常にも増してショパン・ショパン・ショパン! 街のいたるところにディスプレイされるコンクールのポスターやチラシがコンクールへの期待を募らせる。
次回は2025年開催予定。そのタイミングで訪ねれば、一層華やかなワルシャワ体験になるに違いない。
Text:Sachiko Ikeno
Photograph:Reiko Masutani