特別インタビュー
名門モンブランが描く、デジタルツールの新たなビジョン。
2022.12.07
世界最高峰の万年筆ブランドとして知られる「モンブラン」。伝統のクラフトマンシップと気品あふれるデザインは、モンブランに宿るブランドスピリッツを具現化したものであり、腕時計、アクセサリー、レザーアイテムに至るまで、その世界観を忠実に踏襲している。一方で、ここ数年はデジタルテクノロジーにもカテゴリーを拡大。アナログとデジタルとの融合に挑む老舗ブランドの趨勢(すうせい)に注目が集まる。
先駆けとなったのは2016年にリリースされたスマートウォッチ「タイムウオーカー アーバンスピード クロノグラフ e-ストラップ」(日本未発売)。既存の高級機械式時計のクオリティーをそのままに、アクティビティトラッカー、リモートコントローラーのほかスマートフォンと連携した通知機能を搭載。2017年発売の「オーグメントペーパー」ではデジタルペンを使い、手書きとデジタルとの融合を実現した。
モンブランがデジタルツールの技術開発を積極的に行う理由とは何か。先日、ドイツのモンブラン本社より来日したニューテクノロジー・ディレクターのフェリックス・オブシェンカ氏に話を聞いた。
「モンブランには100年以上の歴史とそこで培った専門知識やノウハウ、そして何よりも“ものづくりに対する情熱”があります。スマートウォッチやスマートフォンを当たり前のように使う若い世代には、ぜひデジタルと融合したアナログ本来のワクワク感を味わってほしいと思っています。“ワクワク感”とは、書く感触であり、フォルムの美しさです」
昨年発売された「MB01 ヘッドフォン」も、Bluetooth5.0対応、近接センサー、aptXテクノロジーといった最新機能を搭載する一方で、高品質アルミニウムに上質レザー、また頑丈なシリコンを使うなど人間工学に基づく軽量設計となっている。また今年発売の「モンブラン SUMMIT3 スマートウォッチ」では、Wear OS by googleを搭載し、ユーザーのニーズに対応するさまざまな最新アプリを採用。スマートウォッチをさらなる高みへと進化させている。それにしてもこの大胆なデジタル戦略は、世界中にいる長年のモンブラン愛好家にどう受け止められているのだろうか。
「モンブランを長きにわたって愛用されてきたお客さまにとって、新製品は常に理解しがいたいものです(笑)。それでもモンブランは変革と進化を止めません。むしろそれを続けていくことで、モンブランというブランドのアイデンティーが保たれるのだと思っています。私たちは筆記用具からスタートしたブランドですが、いまでは高級ライフスタイルブランドへと変貌しつつあります。しかし、そのベースにはいつもクラフトマンシップ、イノベーション、デザインがあります。ですから、デジタルの製品も手に取っていただければ、創業当時からのブランドスピリッツを感じ取っていただけると思います」
クラフトマンシップ、イノベーション、デザインというキーワードは、まさに進化しつづけるモンブランを象徴する言葉だ。新たなカテゴリーに挑むモンブランにとって、今後のブランドビジョンを聞いた。
「まず、モンブランはトレンドを追いかけるようなことはしませんし、スマートフォンやタブレットを製品化することもないでしょう。なぜなら私たちが主眼に置いているのはソニーやアップルのようなテクノロジーそのものではないからです。モンブランの強みはクラフトマンシップとデザイン、そして優れた品質、素材です。最新のテクノロジーとの融合はその先にあるものだと思っています」
日本も伝統工芸に始まり、車や家電といった工業製品にまでものづくりの文化が根付いている。モンブランが生まれたドイツと日本の文化にはどこか通じるものを感じずにはいられない。
「私もドイツと日本には共通項が多くあると感じています。手仕事に対する熱意、品質へのこだわり、美しいデザインやアートへの真摯(しんし)な姿勢、なにより日本人とドイツ人は昔から文字を書くことに深い愛着を持っています。先般、日本の人気アニメ『NARUTO』とコラボ(スマートウォッチのナルトバージョン〈日本未発売〉をリリース)したのも、日本への親近感を若い世代に向けて表現するためでした」
アナログとデジタル、そして伝統と進化、この両輪をバランス良く融合させながらモンブランの歩みは加速しそうだ。オブシェンカ氏は最後に日本のユーザーへのメッセージで締めくくった。
「モンブランは、既存のお客さまを大切にしながら新しいお客さまにも喜んでいただけるものづくりを目指します。そして、日本のみなさんに新しいイノベーションをお届けできればと思っています。チャンスがあれば、今後も新たなカテゴリーを開拓していくつもりです」
フェリックス・オブシェンカ
2014年、モンブラン・シンプロ・GMBH(ドイツ・ハンブルグ)に、ニューテクノロジー・マネージャーとして参画。翌2015年に同部門主任、2016年にニューテクノロジー・アソシエントディレクター。2019年より現職のニューテクノロジー・ディレクター。
Text:Satoshi Miyashita