週末の過ごし方
神々しいまでに美しい「アマネム」と、
その土地ならではの伝統文化をたしなむ
「アマネムジャーニー」のすすめ。
2022.12.16
社会によりよい取り組みを行うソーシャルグッドなホテルを、トラベルエディター伊澤慶一が紹介。vol.4で訪れたのは、伊勢志摩国立公園の風光明媚(ふうこうめいび)な自然にたたずむ「アマネム」。滞在中、ホテルが主催する体験プログラム「アマネムジャーニー」に参加することで、旅はいっそう記憶に残る特別なものとなった。
「日本人の心のふるさと」として愛されてきた伊勢神宮から30kmほど南に「アマネム」がオープンしたのは2016年。サンスクリット語で平和を意味する「アマン」と、日本語の歓(よろこ)びを意味する「合歓(ねむ)」から名付けられた。リアス式海岸が美しい英虞湾(あごわん)大崎半島の高台に位置し、都会の喧騒から離れた豊かな自然環境は、まさにアマンの真髄。世界各地のアマンを巡って旅するリピーターのことをアマンジャンキーと呼ぶが、彼らからすると「日本に3軒あるアマン(東京、伊勢志摩 、京都)でも、特にアマンらしさを体現しているのがこの『アマネム』」なのだという。
アライバル パビリオンに到着してまず私が驚いたのが、その静けさだ。聞こえてくるのは、ススキが風になびく音と鳥のさえずりだけ。ここが人里離れた半島の先端であることを再認識する。その静寂と調和するように、建物はすべて日本の伝統家屋を再現した平屋建てで統一され、パブリックスペースのいたるところに大小さまざまな美しい庭がちりばめられていた。約25万㎡という広大な敷地に、客室は24のスイートと8棟の2ベッドルームヴィラのみ。なんてぜいたくな造りなのだろう。これらの敷地内は歩いて回るには広すぎるため、スタッフが運転するカートで移動することになる。
アマネムのデザインを手掛けているのは、これまで数々のアマン建築をデザインしてきたケリー・ヒル・アーキテクツだ。「日本らしさを現代にアレンジ」をコンセプトに、和の建築様式とモダンデザインを見事なまでに融合させた傑作である。客室に入ったら、大開口の窓をぜひ全開にしてみてほしい。室内とテラス、そしてその先の国立公園の絶景とが一直線につながり、まるで森や海、空と一体になったかのようだ。決してラグジュアリーを誇示するわけでなく、シンプルさと自然の要素をふんだんに採り入れることで、アマンの感性を随所に表現している。何もかもが、神々しいまでに美しい……。そう感じさせてくれるリゾートは、なかなかお目にかかれるものではない。
スパ棟の「アマン・スパ」はそれだけで2000㎡もの敷地を有し、アマンとしては世界初となる温泉を導入している。天然の温泉水を使った屋外温浴施設「サーマル・スプリング」はゴツゴツとした岩場の露天風呂ではなく、アジアンリゾートのプールサイドを思わせる空間。実際、デイベッドや東屋が置かれ、利用者は水着を着て温浴を楽しむ。夏は38℃前後、冬は40℃前後と、絶妙な湯加減に保たれており、これが温泉にうるさい日本人の心もぐっとつかむ。段状になったプールで、半身お湯に浸かりながら眺める空は格別だ。うっすらと朝もやのかかる早朝、屋根瓦がいぶし銀に輝く日中、満天の星が頭上を埋め尽くす夜。どの時間帯にもよさがあり、ついつい長湯してのぼせてしまいそうになる。
アマネムの開発にあたっては、できるかぎり自然を借景としながら、さらに敷地全体を「リフォレスト」、つまり風景を元に戻す試みがとられた。現在アマネムが立つ立地には、かつて別のリゾート施設が存在していたのだが、そこに自然林を復元し、かつ当時から残る大樹は極力伐採を避けて建設したという。「当時植栽されたススキやウバメガシが立派に成長し、今では新たな森の一部になったかのようです」と、開業時からのスタッフの方が教えてくれた。創業以来、アマンは世界各地で「開発という名のもとに自然を壊してはならない」という哲学を貫いており、そのDNAはここ伊勢志摩の地にも脈々と受け継がれている。アマネムがソーシャルグッドといえるひとつ目の理由だ。