週末の過ごし方
俳優・町田啓太と考える、装う美学。
グレースーツを「睦月」にまとう。
2023.01.17
日本には四季折々に豊かな表情があり、それぞれにふさわしい「装い」がある。それは単に体感的な暑さや寒さをしのぐといった「機能」を追求するだけのものではなく、Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)、つまりはTPOにそぐうものであるべき。そして、そのことに通底するストーリーを理解し装うことは、正しい「大人のたしなみ」と言えるだろう。
本連載は、一年の12カ月それぞれに季節を意識したテーマを掲げ、大人の男にふさわしいスタイルを模索しようというもの。小誌が培ってきたTPOに合うトラッドスタイルの知見と、現代を代表するファッションアイコン=町田啓太の表現力とのコラボレートにより、アエラスタイルマガジン流現代版「服飾歳時記」としてつづっていく。
奥深き、グレースーツの魅力。
新しい年の始まりには、何事にも襟を正し真摯(しんし)な気持ちで臨みたい。松の内が明け、仕事も通常モード。礼節を表現し、自身のプライドを高ぶらせる装いが“気分”である。多くの男たちにとって、選ぶべき正解はスーツだろう。色はネイビーかグレーが基本。最近ではブラックもそれに加わるが、公私共に充実した一年を経て一段と成長した今の町田には、不思議とグレーがしっくりくる。
「グレーには“大人”のイメージがあります。ふと思い出したのですが、大学の入学式を迎えるにあたり、なぜかグレーのスーツを選びました。親から買ってもらった、初めてのスーツです。東京に出るタイミングで、新しい気持ちで挑みたい。そんな思いを自分なりに込めました。でも、思った以上に“大人”に見えた。入学式直後、同級生たちにはサークルの勧誘が殺到。でも自分には、誰からも誘いがない。後で聞いたら、大学院生に見えたようで……。当時の自分には、難しく感じた色でした」
「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」という言葉があるように、ひと口にグレーと言ってもその表情は多種多様(実際に100色あるという意味ではない)。ストイックさを印象づけるグレーがあれば、柔和なムードを醸すグレーもある。
まず町田が袖を通したのは、ミディアムグレーのスーツ(冒頭からの3カット)。アメリカントラッドのディテールを継承しつつも、シルエットはモード。トム ブラウンの伝統へのリスペクトと、その解釈に対する遊びがつややかに光る一着だ。まとう町田の表情からは、おのずと知的な色香がにじむ。
続いてまとうのは、ブルネロ クチネリの淡いグレーのスーツ。柔らかく軽やかで、それでいて奥深い大人の魅力が薫る。トム ブラウンのそれと同じく、グレースーツにホワイトシャツとグレーのソリッドタイを合わせるというシンプルなコーディネートだが、ご覧のとおり印象はまったく異なる。洋服が醸す空気を呼吸した町田の表情にも、クールさを保ちつつどこかリラックスしたムードが漂う。
「スーツは難しい。サイズ感や仕立てなど、大切なポイントがいくつもある。ファッションの仕事以外、例えばドラマでご用意いただくスーツでも、役のキャラクターにしっかりと合ったものを、スタッフさんと一緒に模索します。自分としては、そこはちゃんとやりたい。キャラクターに合ったものを選べば、絶対に“力”になる。だからこそ、難しいけど楽しい」
スーツをきちんと着こなすことは、自身のインテリジェンスやクラス感を表すことにも通ずる。白黒ハッキリつけた潔いスタイルもいい。だが今年は、グレーの奥深さを理解し成熟してゆく町田啓太のスーツ姿もたくさん見たい。
From Editor
「四十八茶百鼠」という言葉は、江戸時代の後期に登場。町人や商人の暮らしが豊かになり、装うものにこだわる文化が隆盛した頃だそうです。庶民のぜいたくな様子を苦く思う幕府が「奢侈禁止令(しゃしきんしれい)」を出し、着物の生地や値段はもちろん、色も茶、鼠、藍に限るとお達しするも、かえって彼らの反骨精神に火がつきます。許可された範囲で創意工夫をし、微妙な染め分けで人とは違う色を追求。このときにできた茶と鼠の膨大なカラーバリエーションを指して、この言葉が生まれたようです。不自由に感じる規制も、軽やかに遊んでみれば違う景色が見えるはず。そんな“粋”な試行錯誤を、本連載では続けていきたいと思います。
アエラスタイルマガジン編集長[雑誌・タブロイド] 藤岡信吾
町田啓太(まちだ・けいた)
1990年生まれ。俳優、劇団EXILEメンバー。映画『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』『太陽とボレロ』、テレビドラマ『テッパチ!』(フジテレビ系)、『ダメな男じゃダメですか?』(テレビ東京)、『漫画家イエナガの複雑社会を超定義』(NHK)など話題作に多数出演。昨年12月から、警察庁「ストップ・オレオレ詐欺47〜家族の絆作戦~」プロジェクトチーム(略称:SOS47)のメンバーに就任。
Photograph: Sunao Ohmori(TABLE ROCK.INC)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up: KOHEY
Edit & Text: Shingo Fujioka(AERA STYLE MAGAZINE)