週末の過ごし方
俳優・町田啓太と考える、装う美学。
「如月」に、春のコートを待つ。
2023.02.09
日本には四季折々に豊かな表情があり、それぞれにふさわしい「装い」がある。それは単に体感的な暑さや寒さをしのぐといった「機能」を追求するだけのものではなく、Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)、つまりはTPOにそぐうものであるべき。そして、そのことに通底するストーリーを理解し装うことは、正しい「大人のたしなみ」と言えるだろう。
本連載は、一年の12カ月それぞれに季節を意識したテーマを掲げ、大人の男にふさわしいスタイルを模索しようというもの。小誌が培ってきたTPOに合うトラッドスタイルの知見と、現代を代表するファッションアイコン=町田啓太の表現力とのコラボレートにより、アエラスタイルマガジン流現代版「服飾歳時記」としてつづっていく。
春風を迎え撃つ、スプリングコート。
2月は寒い。それゆえ、衣を更に重ね着することから「衣更着(きさらぎ)」。転じて、「如月」になったそうだ。一方で、その由来には諸説あり、陽気が更に来る月であることから「気更来(きさらぎ)」、草木が生えはじめることから「生更木(きさらぎ)」などといった、暖かい春の訪れを告げるものもある。
冬の装いは選択肢が多く、重ね着も楽しい。だがしかし、立春を過ぎれば暦の上では「春」。その到来を喜び、気分を一新するような、軽やかで解放的な着こなしを楽しみたくなるのも人情だ。
「春めくとき、匂いが変わる。その移ろう感じがとても好き。ファッションも、店頭が春物の新作にガラリと変わる時期。ワクワクしますね」
そう語る町田だが、少し間をおいてこんな懸念も続ける。
「春一番など、風が強い季節でもありますよね。そんな風に乗って、これから“花粉”が来るのかぁ……と、ソワソワします。花粉症に悩まされるようになったのは、実は東京に出てきてから。田舎で暮らしていたころには、そんな悩みはなかった。地元の友だちからは、よく『東京に染まったな』と冷やかされます。2月は、“戦い”に備える季節とも言えるのです」
花粉に対抗するには戦力外かもしれないが、これからの季節はスプリングコートがコーディネートの武器となる。今回の撮影で町田がはおったのは、英国の名門「マッキントッシュ」のそれ。ゴム入り繊維(マッキントッシュクロス)のパリっとした風合いと仕立て、気品のある発色が、町田を陽春のムードに誘う。
「この仕事を始めて、最初に買ったコートがマッキントッシュ。正直、安い買い物ではなかったけど、自分としては背伸びをしたかった。気を引き締め、改めて覚悟を決める。そう思わせる何かが、このコートにはある」
まとえば衣ずれも粋で、着るほどに体になじむ。着込んだ生地の風合いやシワの陰影は、着用者の魅力にある種の深みを添える。
「人と共に成長するコートって、いいですよね」
そんな服を着こなす町田と、春を、そして人生を、謳歌(おうか)したい。
FROM EDITOR
2月は忍ぶ季節――。如月のイメージについて雑談をしていたところ、町田さんからこんな言葉がこぼれてきました。その心を問えば、「学生時代、自分は推薦で進路が早く決まっていたので、なるべく受験で頑張っている同級生たちの目障りになりたくなくて……」と。当然、タイミングが違っているだけで、決して町田さんが頑張らなかったわけではありません。アンダーステイトメント、つまりは控えめで奥ゆかしいことを美徳とする「英国紳士像」が、町田さんと自然に重なった瞬間でした。
アエラスタイルマガジン編集長[雑誌・タブロイド] 藤岡信吾
町田啓太(まちだ・けいた)
1990年生まれ。俳優、劇団EXILEメンバー。映画『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』『太陽とボレロ』、テレビドラマ『テッパチ!』(フジテレビ系)、『ダメな男じゃダメですか?』(テレビ東京)、『漫画家イエナガの複雑社会を超定義』(NHK)など話題作に多数出演。警察庁「ストップ・オレオレ詐欺47〜家族の絆作戦~」プロジェクトチーム(略称:SOS47)のメンバーとしても活動中。連続ドラマW『フィクサー』が2023年4月23日(日)22:00放送・配信スタート。
Photograph: Sunao Ohmori(TABLE ROCK.INC)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up: KOHEY
Edit & Text: Shingo Fujioka(AERA STYLE MAGAZINE)