週末の過ごし方
心が震える、北極への旅。【前編】
2023.02.03
この夏、コロナ禍を経て、約3年ぶりに日本を飛び出した。北極圏に位置するスヴァールバル諸島から目指したのは、白夜の北緯90度。白と青の世界へ、16日間の北極クルーズ旅へ。
人は、冒険したい生き物なのだと思う。自由に旅ができなかった3年にも及ぶコロナ禍も、ついに出口が見えてきた。国境を自由に越え、知らない土地や新しいものに出会う非日常への冒険=旅が、どれだけ日々のモチベーションになり、心に豊かさをもたらしていたのかを、実感した人が多かったのではないだろうか。
最後に海外に出かけてから約3年。この夏、冒険の旅に出た。目的は、多くの探検家たちが憧れた、北極点を目指す極地クルーズ、エクスペディションクルーズだ。
人類が初めて北極を目指したのは、約200年前のこと。イギリス人探検家のウィリアム・エドワード・パリーをはじめ、歴史上、数々の探検家たちが魅せられ憧れた、到達困難な地。なぜ多くの探検家たちが北の極地を目指すのか? その場所に立ったら地球が直面している問題を身近に感じることができるのか? 先駆者たちがたどった軌跡とロマンを胸に、北の極地へと向かった。北緯90度を目指す16日間のクルーズトリップ。白夜の中の、夢のような旅が始まった。
今回のクルーズツアーの出港地となったのは、北極圏スヴァールバル諸島ロングイェールビーン。現代版ノアの箱舟とも呼ばれるスヴァールバル世界種子貯蔵庫がある永久凍土の土地である。ここから海の上のラグジュアリー客船「ル コマンダン シャルコー」に乗り込んだ。
地球の未来を考える旅
北緯90度へ向かう北極圏の船路は、日々、自然からのサプライズの連続だった。上船2日目、興奮した様子でキャプテンからの船内アナウンスが入る。珍しいホッキョクセミクジラが見られるらしい。上船3日目の早朝には、全員が期待していた野生のホッキョクグマが、突然に現れた。乗船時に配られたオレンジ色の防寒着・パルカを片手に急ぎ足でデッキに向かい、360度、海と海氷しかない白と青の世界に静かにたたずむホッキョクグマの行方を全員で追う。北極圏に生息するホッキョクグマは、生後2年ほど親熊と一緒に暮らして狩りを学び、その後単独行動をとる。初めて出会ったホッキョクグマは、船上にいる私たち人間の様子を氷の上から一匹ぽつんと不思議そうにうかがっていた。
ホッキョクグマは今、国際自然保護連合(IUCN)から絶滅危惧種のレッドリストに分類されている。「これまで何度もホッキョクグマに出会っていても、毎回それが初めての体験だと思えるほどに、北極で彼らに出会えることは幸運なことであり、毎回感動する出来事です」と、ル コマンダン シャルコーのキャプテン、エティエン・ガルシア氏は言う。厳しい自然の中で生きる貴重な自然動物との遭遇は、これからの旅路で出会う雄大な自然からの最高のおもてなしのように感じる一方で、親子や単体のホッキョクグマに出会うたびに、大自然の中でたくましく強く生きる姿やその尊いまなざしに大きく心を動かされ、美しい地球の未来を願わずにはいられなくなった。
Photograph:©Studio PONANT / Olivier Blaud,Joanna Marchi
Edit & Text: Ai Yoshida