週末の過ごし方
心が震える、北極への旅。【後編】
2023.02.10
地球の最北端で、地球人であることを確認する
北緯90度、今回のクルーズ旅のハイライトのひとつである北極点にたどり着いたのは、ロングイェールビーンを出港してから5日目のことだった。キャプテンの意向で操舵室はほとんどの時間開放されており、北緯90度にたどり着いた瞬間はキャプテンやクルーズスタッフたちと一緒にその成功と達成を喜び合った。
この日の夜(といっても外は明るいが)、北極点到達を祝うパーティーが開催されたのだが、そこにはフランス、ロシア、ドイツ、アメリカ、オランダ、日本など、国籍も性別も年齢も関係なく、北極の寒空の下、皆が一緒に手を取り、踊りを楽しむ姿があった。乗客は約250名とクルーズ客船としては決して多くはないが、全員が16日間の冒険を共にするバディのように、毎朝あいさつを交わし、アペロを共に楽しみ、刻々と移り変わる自然の美しさを共有するアットホームな環境はとても心地がいい。
確実に言えるのは、ここでは国籍や住む場所でのいがみ合いはない。北極の海氷に上陸したとき、船の上に掲げられた北極の風になびくさまざまな国旗を見て、人間も動物も自然も、地球に住むバディとして、遠い場所に住む人や動物のことを友人のことのように思えたら、地球も自分自身も心地よく暮らせるのではないかと、そんなことを北極点で考えていた。
ル コマンダン シャルコーには、キャプテンを筆頭に、極地旅行のプロフェッショナルであるエクスペディションチームやナチュラリストガイド、そして研究者たちが乗船している。エクスペディションクルーズは、どこまでも自然ファーストだ。北極点からスヴァールバル諸島に戻る道中、時折船を止め、海氷に上陸しアクティビティを楽しむ機会が何度もある。海氷の中を進むカヤックや、ポーラープランジ(極海ダイブ)、ゾディアックボートでの探検、スピッツベルゲン島でのハイキングなど、専門家たちがいなければ出会うことができない、その日、その場所でしか見られない絶景は、忘れられない記憶になる。
「予定は事前に決まっていません。天気が良くて氷の状態もいい。よし、今日はここでアクティビティをしよう。そんなふうに自然と対峙すること、自然を注意深く観察することが、美しい景色へとみなさんを誘う、このクルーズの哲学です」と、キャプテンのガルシア氏も特別な冒険をそのように言葉にしていた。同じ冒険は2度とない。私たちが体験した16日間は、同じクルーズに乗った人だけが共有できた世界で唯一の旅であり、ほかのクルーズ旅も、そのとき居合わせた人だけが遭遇できる、自然との縁なのである。
自然と向き合う旅は、人の心を豊かにする。次の旅の目的地も、心を震わせる場所へ。
Photograph:©Studio PONANT / Olivier Blaud,Joanna Marchi,Joanna Marchi
Edit & Text: Ai Yoshida