週末の過ごし方

インディアンサウナ。
佐藤タイジ

2023.04.13

インディアンサウナ。<br>佐藤タイジ

撮影の仕事でNYに行ったときの話。最初のカットはNY中の変なヤツ50人くらいをエキストラに使ったもの。えげつなかった。そのなかでひときわ異彩を放つ白髪が膝まであるネイティブ・アメリカンのお爺さんがいた。あまりにカッコいいのでつい話しかけてしまった。すると「こないだまで日本に行ってたよ」と言う。
「そう言えば東京でミュージシャンと対談する予定だったけどスケジュール合わなくて会えなかったんだよねー」
なんか身に覚えあるなぁ。ちょうどその1カ月くらい前に新宿ロフトのシゲから「ネイティブ・アメリカンのメディスンマンと対談しないか?」と電話があった。
「ひょっとしてロフトのシゲってわかります?」
「あ、わかるかも」
「えぇ! じゃあ東京で対談するはずだったミュージシャンってオレです!」
東京では会えなかったが、結局こんな形で会うなんて……お互いビックリ。彼の名前は「SilverBird」。なんてカッコいい名前なんだ。私はすっかり彼になついてしまった。

撮影の休日に、SilverBirdはわれわれ日本人クルー全員をできたばかりの“Indian Museum”に招待してくれた。彼の子どもたちが働いているらしい。その息子たちがミュージアムでやっていた舞台はこんな話だった。
ある日、色の白い男が海岸に打ち上げられていた。まだ息がある。介抱してとうもろこしを食べさせてやった。元気になった白い男は言った。
「このとうもろこしはとてもおいしいのでもっとください」
われわれは白い男にとうもろこしを与えた。しばらくすると白い男は言った。
「このとうもろこしは素晴らしいので今度はとうもろこしの“畑”をください」
われわれは白い男にとうもろこし畑を与えた。しばらくするとまた白い男は言った。
「とうもろこし畑がもっと必要だ。畑をもっとよこせ!」
われわれは白い男にもっととうもろこし畑を与えた。すると白い男は言った、「このとうもろこし畑は全部オレのものだ! おまえたちは出ていけ!」
アメリカという国はこのようにしてできました。

こんな話を地元の小学生に向けてやっていた。カルチャーショックに近い感覚を覚えた。日本人はアイヌ人や琉球人から見た歴史を小学生に見せられるのだろうか?

Indian Museumを出てSilverBirdと近くのダンキンドーナツでコーヒーを飲んだ。
「タイジ、明日何やってる?」
「明日も休みだよ」
「明日サウナやるんだが、タイジも来ないか? とても素晴らしいぞ」
「えぇ? サウナ? オレ、サウナって嫌いなんだよねー。やめときます」
あぁ、私がみんなに伝えたいのはこれなのだ。私はSilverBirdのいう“サウナ”と日本のオジサンが入る“サウナ”が同じものだと思っていたのだ。バカだった。
SilverBirdはオレを正調“インディアンサウナ”または“スウェットロッジ”に誘ってくれていたのだ。あの新しい自分に生まれ変わるといううわさのサウナだ。知らなかったのだ。その後本当の“インディアンサウナ”のことを知ったときは悔しさと自分のバカさに呆れて立ち直れなかった。

若者たちよ、旅先でのお誘いは可能な限りお受けしなさい。特に信頼できる年寄りからのお誘いは絶対だろう。

SilverBirdは最後にこう言った。
「残念じゃな、タイジ。じゃあ最後にオマエに教えておいてやろう。大事なことじゃ」
「何ですか?」
「Love is a center of the universe. 愛が宇宙の中心なんじゃ」
ダンキンドーナツでの愛と宇宙の話は私の宝物だ。いつか私も真っ白になったアフロヘアで若者に言う日が来るだろう。

「愛が宇宙の中心なんじゃ」

佐藤タイジ(さとう・たいじ)
1995年、フロントマンを務めるTHEATREBROOKでメジャーデビュー。音楽とロックを愛する本格派の支持厚いミュージシャン。太陽光発電で開催するフェス「THE SOLAR BUDOKAN」ファウンダー。KenKenとのユニットComplianSで昨秋アルバムリリース。

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アエラスタイルマガジンVOL.54 AUTUMN / WINTER 2022」より転載

Illustration:Koki Tsubomoto
Edit:Toshie Tanaka (KIMITERASU)

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