週末の過ごし方
俳優・町田啓太と考える、装う美学。
「卯月」のジャケットは和食のように。
2023.04.12
卯月(うづき)もまた、由来が多い。卯の花(うつぎ)が咲くことからそう呼ばれるというのが定説だが、稲穂を植えることから植月(うゑつき)、一年の循環の最初を意味する「初」「産」、つまりは「う」の月から転じたという説も意味的にうなずける。
新年度の始まりとなるこの時期には、節目の式典や、プロジェクトのキックオフを祝う会も多い。そんな折り、意識せざるを得ないのがドレスコードである。
コロナ以降、世の中全般的にニューノーマルが推奨され、夜のパーティーに「ブラックタイ」(=タキシード着用。決して黒いネクタイをするという意味ではない)を指定される機会は減った。代わりに、コロナ以前から増えつつあった「スマートカジュアル」が一気に台頭。多くの男性たちを迷わせているようだ。
だがしかし、ASM愛読者であれば慌てることはない。われわれには、ネイビージャケットがある。大人の男のワードローブの中核を担うこのアイテムを、清潔感のあるシャツとパンツ、そして手入れの行き届いた革靴にさらりと合わせれば、まず問題なくその場になじむはずだ。
「ネイビーは困ったときに選ぶ色」とは、町田啓太。「自分にとって肌なじみがよく、落ち着き、コーディネートをしやすい。今回の撮影ではおったジャケットは、着ていて重さをほとんど感じない。仕立てがいいので、シルエットが美しく際立つ。どんなシーンでも前向きでいられる」と続けた。
さて、昨今のテーラリング(ジャケットの仕立て)の主流は、副資材をなるべく省きつつも立体的に見せ、体に柔らかくフィットしながら軽やかな着心地を追求するもの。そのある種の「足し算ではなく引き算」の美学が息づくこのブルネロ クチネリのジャケットを、町田は「和食」のようと称した。
なるほど、和食の醍醐味(だいごみ)は調和。様式を超えて料理を成立させる懐の深さが、そこにはある。そのメタファーのとおり、仕立てのいいネイビージャケットはある意味で万能。コーディネート次第で、きちんとした場にも、くだけた場にも寄り添う。
例えば、瀟洒(しょうしゃ)なリゾートホテルのレストランにて。タイドアップで端正な胸元を演出しながらも、カーゴパンツで“ヌケ感”を添える……。そんなドレスコードやTPOを意識した大人の遊びを、町田のスタイルをお手本に味わいたい。
FROM EDITOR
今回のインタビューは小誌vol.54の取材撮影のタイミングで、星野リゾート バンタカフェでランチをしながら行いました。おいしいごはんを食べながらの会話だったこともあり、話はちょこちょこ脱線。いつしか話題は、おしゃれに目覚めたきっかけに。町田さんの場合は、大学に入学してすぐに入ったダンス同好会の新歓コンパ。いつものように「学校名」がしっかり入ったジャージで参加したら、ご自身以外はみんなおしゃれ。肩身の狭い思いをかみ締め、春風と共にファッションに目覚めた瞬間だったそうです。さて、個人的にファッションという表現の本質は自由であるべきだと思います。とは言え、社会と関わる以上はある一定のルールも必要。不自由に感じた規制を軽やかに遊んでみれば、きっと違った景色が見えてくるはず。そんな「きづき」を、今年度もいろいろなカタチでお届けしたいと思っています。
アエラスタイルマガジン編集長[雑誌・タブロイド] 藤岡信吾
町田啓太(まちだ・けいた)
1990年生まれ。俳優、劇団EXILEメンバー。映画『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』『太陽とボレロ』、テレビドラマ『テッパチ!』(フジテレビ系)、『ダメな男じゃダメですか?』(テレビ東京)、『漫画家イエナガの複雑社会を超定義』(NHK)など話題作に多数出演。2023年4月からは、テレビ朝日『unknown』、WOWWOW連続ドラマW『フィクサー』が放送・配信スタート。来年にはNHK大河ドラマ『光る君へ』の出演が控える。
Photograph: Sunao Ohmori(TABLE ROCK.INC)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up: KOHEY
Edit & Text: Shingo Fujioka(AERA STYLE MAGAZINE)