お酒
人生を彩る新しいお酒の物語。
REUNIONの「WELLNESS GIN」とは? その①
2023.05.16
ごくまれに現れる画期的な創作物には、とんでもない熱量がつまっている――。
HさんとIさんのふたりが一切の妥協を捨て、思いの丈を込めて造ったスピリッツ「WELLNESS GIN」は、まさしくそんな創作物だった。
ジンの香りのベースとなるジュニパーベリーに合わせたのは、さまざまな薬効があると言われ、キノコ類の中でも希少種とされる幻のキノコ「霊芝」(REISHI)。これをボタニカルとして用いたのだ。
この冒険的とも言えるふたりの試みは、驚きの結果をもたらす。周囲からも「苦いから無理」と思われていた霊芝が、ジンにぴったりとはまったのだ。欠点に思えた苦みがキレと爽快感となって、まったく新たなスピリッツを生んでいた。
カクテルに用いても決して負けることのない唯一無二のニュースピリッツが誕生したのである。
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ブランドのコミュニケーション畑を歩いてきたHさんと農業に取り組むIさんが初めて出会ったのは、いまからちょうど2年前の2021年5月。芋焼酎を海外で展開したいと考える鹿児島の焼酎メーカー「佐多宗二商店」からの相談で、ふたりはプロジェクトチームに加わり、初めて顔を合わせた。鹿児島に集合し、関係者たちと議論し、酒を酌み交わし、今後のブランド展開をあれこれ考えた。
Hさんがこのときのことを振り返る。
「『焼酎だけを世界に広めていくのはなかなか難題、でも、世界中の蒸留器があって、クラフトマンシップがあるなら、スピリッツ(蒸留酒)をテーマに何かオリジナルなものを造ったら海外でも喜ばれんるじゃないか』といった話にすぐに行き着きました。芋焼酎をベースにした蒸留酒を造ろう、となったんです。スピリッツは世界で愛されている文化であり、共通言語だから、向かうべきは、そこだろうと」
鹿児島で意気投合したふたりは、帰京後、ほどなく「REUNION」ブランドを掲げ、会社を立ち上げていた。
IさんはHさんをこう評する。
「彼とは最初から価値観が合いました。『これをビジネスにしていくらもうけて』とかは一切出てこなくて、これをやったら楽しい人が増えるんじゃないか、ワクワクすることがやりたい、世の中をカラフルに彩りたい、といったことに優先順位があった。そこをいちばんに取れる人ってまれで、そんなスタイルが合うことが、自分にとってはいちばん大事でした」
帰京後、ふたりはミーティングを重ね、少しずつプロダクトのイメージを固めていく。スピリッツはジンに決め、中味、デザイン、ローンチの時期などを検討し、具体化していった。クリエイティブは、ニューヨークのチーム、アーティストに依頼した。
「WELLNESS GIN」のコアとなった霊芝は、いかにして浮上してきたのか。
「ジンのオリジンを調べると、オランダのお医者さんが東アジアの熱病対策のために薬酒として開発したものだと知り、リスペクトを込めて薬酒を造るとすれば、東洋医学をベースにしたものがいいだろうとなりました。そこでたどり着いたのが漢方などで重宝されている霊芝でした。医療の世界にいるときから、キノコの効能には興味があったんです」(Iさん)
霊芝をボタニカルとして採用するのは、ジンの本質に近づく作業でもあった。
「香りのいいジンとかって、世界中にたくさんあるんです。それをフォローするお酒を僕らが造る必要はないと思っていました。生まれたときから湿度も違うし、触れてきた自然も、香りも、見てきた色も、全部違う僕らなりのお酒は、起源に忠実な薬酒を現代によみがえらせることでした」(Iさん)
「最初は、苦いから絶対に無理だって言われたんです。実際サプリとかで飲んだこともあって苦いことは知ってたんですが、芋焼酎と合わせてみたら、おいしかった。芋焼酎のふくよかさが霊芝の持つ苦味を受け止めてくれた。絶妙な組み合わせだったんです」(Hさん)
Iさんは、医療の仕事で知り合ったキノコ博士に北海道の霊芝の入手経路を確保する。「WELLNESS GIN」で使う霊芝は、枯れた木に自生するもので、とりわけ抗ガン作用などが期待されるトリテルペノイドなどの有効成分が多いとされる種類だった。
もっとも、自然との共生を重んじるその老生産者は、必ずしも一定量を定期的に送ってくれるというわけではなかった。
「10キロって発注しても、おじいさんが散歩に行って取りたいと思ったら取る、というスタイルなので、求める量が入ってくるわけではないんです。でも、それは最初からわれわれもわかっていたことだったし、そんなやり方に従うのもステキだなって」(Iさん)
次にふたりの課題となったのは、香りのベースであるジュニパーベリーとキーボタニカルとなった霊芝に何を合わせて味をまとめていくか、だった。
「ユズ、カボス、ペパーミント、パクチーなどさまざまな素材のスピリッツをスポイトを使ってブレンドさせながら、何十種類も試しました。仲間を集めて、飲んで、記録して、とやっていったのですが、僕たち、試飲したものをもったいなくて捨てられないので、毎回2時間半とかやっていると最後はベロベロになってしまって(笑)。だからもう何十回も試飲会をやってました」(Hさん)
最後まで難しかったのは、どんな柑橘類を入れても甘さを感じてしまうことだった。食事の邪魔をしない、食中酒にすることもひとつの目標だったから、甘さは控えたかったのだ。
「解決したのは、ひとつのボタニカルでした。公表はできないのですが、これを入れたら、芋の丸み、霊芝の苦みとぴったりマッチした。完成したジンを鹿児島の佐多さんのところに持って行ったら、『おいしいね、これいけるよ』と一発で合格をもらえたんです」(Hさん)
ジンの味は、こうしてひとつの目標点へと達することとなった。しかし、ふたりが掲げた創造物のハードルは高く、向かうゴールはまだずっと先だった。
難題をわざわざ自分たちに突きつけ、それを克服していく。その気概こそがふたりの本領だった。
こののち、ふたりは、誰もが手を出したことのない、手を出そうとしなかった領域へと踏み込んでいく。それは、少し無謀だがとてつもなく意義深い冒険でもあった。
※個人名を明記することにより特定のイメージを付与させたくないというブランド側の意向を汲み、登場人物名をあえてイニシャル表記にいたしました。
Text: Haruo Isshi
Photograph:Hiroyuki Matsuzaki (INTO THE LIGHT)