週末の過ごし方
俳優・町田啓太と考える、装う美学。
紳士の傘と、「水無月」に舞う。
2023.06.02
日本には四季折々に豊かな表情があり、それぞれにふさわしい「装い」がある。それは単に体感的な暑さや寒さをしのぐといった「機能」を追求するだけのものではなく、Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)、つまりはTPOにそぐうものであるべき。そして、そのことに通底するストーリーを理解し装うことは、正しい「大人のたしなみ」と言えるだろう。
本連載は、一年の12カ月それぞれに季節を意識したテーマを掲げ、大人の男にふさわしいスタイルを模索しようというもの。小誌が培ってきたTPOに合うトラッドスタイルの知見と、現代を代表するファッションアイコン=町田啓太の表現力とのコラボレートにより、アエラスタイルマガジン流現代版「服飾歳時記」としてつづっていく。
英国王室御用達の名品が、
俳優の“表現力”に火をつける。
梅雨で雨が多いにもかかわらず、水無月(みなづき)――。字面から不思議に思われる方も多いだろうが、ここでいう「無」は、「の」にあたる連体助詞の「な」。水が無いわけではなく、「水の月」という意味からこう呼ばれるようになったのだとか。ほかに、水の無かった田んぼに水を引く時期であるということからや、反対に田んぼに水を引くため周囲に水が無くなるということからなど、その語源には諸説ある。
「雨も悪くない」とは、町田啓太。幼少期に稲作地帯で育ったからか、この時期の雨に「恵み」や「潤い」のイメージが重なるという。
「小学生のころ、周りの友だちは“外遊び”ができないことから、雨を嫌っているようだった。でも、自分は違った。濡れた山の表情が好きだったし、雨に打たれる木々の葉音に耳を澄まし楽しんでいた。雨のおかげで生まれる、いい雰囲気がある」
確かに古今東西、雨は創作のモチーフになることが多い。新海 誠監督の短編アニメ映画作品『言の葉の庭』は6月の梅雨を描いた物語で、町田も大好きだという。
「雨を象徴的に、丁寧に描いている名作。秦 基博さんが歌うエンディングテーマ『Rain』(作詞・作曲/大江千里)も、本当に素晴らしい」
そんな町田に、梅雨時期の洒落者たちの強い味方であるフォックス・アンブレラの傘を手渡す。
「大学時代、ダンスサークルに入っていた。そこでは年に1回の自主公演があり、それに向け何かしらの“テーマ”を掲げ創意工夫をする。自分が4年生になったときには、雨をテーマに“傘”を用いた表現をしようと決めていた。BGMは、ブライアン・マックナイトあたりで。ただ、仕事が忙しくなってきた時期と重なり、残念ながら実現に至らなかった」
そう言いながら、カメラの前に。キリリと細巻きにされた傘と戯れるかのごとく、めくるめく表情とポーズを繰り出す。開けば、雨粒や水たまりの情景がアーティスティックに浮かぶよう。大学時代のダンスとは異なるが、英国王室御用達の逸品を手に、数段格上の“大人の表現”を見せてくれた。
やっぱり、雨も悪くない。
FROM EDITOR
昨年12月にスタートした服飾歳時記も、いよいよ後半に突入。読者の皆さまによりご満足いただけるよう、スタッフ一同、さらなる精進を重ねる所存です。そのひとつのトライアルとして、音声配信プラットフォーム「Voicy」のチャンネルを開設することにしました。ここでは、町田さんの“生声”も! ぜひチェックしていただき、よろしければチャンネルのフォロー、いいね、シェアをお願い申し上げます。
アエラスタイルマガジン編集長[雑誌・タブロイド] 藤岡信吾
町田啓太(まちだ・けいた)
1990年生まれ。俳優、劇団EXILEメンバー。映画『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』『太陽とボレロ』、テレビドラマ『テッパチ!』(フジテレビ系)、『ダメな男じゃダメですか?』(テレビ東京)、『漫画家イエナガの複雑社会を超定義』(NHK)など話題作に多数出演。現在、テレビ朝日『unknown』が放送中。WOWOW連続ドラマW『フィクサー』シーズン2が7月9日(日)夜10時から放送・配信スタート。来年にはNHK大河ドラマ『光る君へ』の出演が控える。
Photograph: Sunao Ohmori(TABLE ROCK.INC)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up: KOHEY
Edit & Text: Shingo Fujioka(AERA STYLE MAGAZINE)