カジュアルウェア
SHOWCASE
人生を変える、ただひとつのカメラ。
2023.06.08
ファッションエディターの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。
私事で恐縮だが、昨年秋に自費出版で写真集を上梓させてもらった。全280ページ、すべて編集者であるぼくが、ライカのデジタルカメラで撮影したものだ。2015年にM型ライカと出合ってから、ぼくの仕事と生活は大きく変わった。
海外出張のときに、カメラマンを伴わないと取材ができないことに不自由さを感じて、思い切って手に入れたのが『ライカM TYP240』。編集者ごときがクルマを買える価格のカメラやレンズを買うなんて、分不相応だとわかってはいたが、こればかりは仕方ない。高級機械式時計や旧車に通じる圧倒的な質感や、操作の楽しさ、デジタル特有のイヤらしさを感じさせない上品な描写もさることながら、このカメラはぼくの人生をも変えてくれるような気がしたのだ。
かくしてその予感は的中する。自分の心に映った映像を表現してくれる〝第二の目〟として。ビスポークスーツや本格靴にもマッチする、装いの工芸品として。そして、そんな素晴らしい道具を愛する者どうしの、コミュニケーションツールとして……。この8年、『ライカM TYP240』はさまざまな形で、ぼくの人生を豊かにしてくれたのだ。
このカメラを所有している間、M型ライカは幾度となく進化したニューモデルを発表してきた。なかでも昨年登場した『ライカM 11』は、操作性といい画質といい、決定版とも言える完成度だ。正直言ってとても欲しい! しかしぼくは、たぶん傷だらけになった今のライカを手放すことはないだろうな、とも思っている。8年前のデジタルカメラなんて普通なら型落ちと言われそうなのだが、ライカの描写とその価値は不思議と決して色あせないのだ。だからもし今、かつてのぼくのように、ライカを買うか買わないか迷っている方がいたら、自信を持って最新の『ライカM 11』をおすすめしたい。このカメラは今後10年、あなたの人生をきっと楽しくしてくれるよ、と。
山下英介(やました・えいすけ)
ライター・編集者。『MENʼS Precious』などのメンズ誌の編集を経て、独立。現在は『文藝春秋』のファッションページ制作のほか、webマガジン『ぼくのおじさん』を運営。
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「アエラスタイルマガジンVOL.54」より転載
Photograph: Ryohei Oizumi
Styling: Hidetoshi Nakato (TABLE ROCK.STUDIO)