スーツ
【タイ・ユア・タイ】
ピッティで知る、スーツの現在。
2023.07.05
ネクタイから始まるスーツの着こなし
ピッティ会期中、ピッティ・ピープルに人気の街中の巡礼地は、最近はやりのビンテージ・ショップとサルトリアだ。
そのひとつにネクタイの名店「タイ・ユア・タイ」がある。オーナーの加賀健二氏はフィレンツェの高級ネクタイのメーカー「セヴン・フォールド」を経営し、普段着もスーツという日本を代表するウエル・ドレッサーである。
加賀氏は今のスーツの復活の予兆をどうみているのか。「大量生産の大量消費にみな疲れているんですよ。うちはトレンドではなく個性を追求して38年です。大手が手を出さない面倒なことをあえてやり、カスタマイズを心掛けてきました。今は男性の消費傾向がオンリーワンなものを求めるようになってきている。まさにうちにぴったりです。時代が追いついてきた感じですね」。レジェンド・加賀氏の視点はいつも独創的だ。
ここは店名が伝えるように、もとはフィレンツェ伝説のダンディー・故フランコ・ミヌッチ氏が経営していた店ののれんを、長年共同運営をしてきた加賀氏が引き継いだものだ。かつては伝統職人工房であふれていたフィレンツェで育ったミヌッチ氏も加賀氏も、名品の目利きである。同店では多様なネクタイに合わせて、職人の手になる高品質なバッグやベルトなどの小物類に、ス・ミズーラのスーツやシャツ、靴なども取り扱う。
「ここでしか手に入らないスタイルのネクタイと合わせてお仕立てになるお客さまが多いですね」
たとえばセッテ・ピエゲのネクタイ。慣れると一日中締めていても疲れず、それに「カルロ・リーバ」のシルクのように柔らかいコットン使用のフラシのシャツを合わせ、さらに第二の皮膚のごとく滑らかな着心地のスーツで一日を快適に過ごす、それこそが「スーツを日常に着る醍醐味(だいごみ)」であると長年語りつづけてきた。
30代前後の若い顧客も多く「トレーサビリティなどに敏感で本当に良いものを身に着けたい、その価値もしっかりと理解していてSNSを駆使して自己評価を高めるスキルにしている」という。
「着物文化がある日本では、スーツは受け入れられやすいし、不確実な世の中だからこそ、ネクタイで身なりを正して臨みたい。これからもスーツ市場は伸びてゆくと思います」
クラシックなアイテムなのに新鮮な装いの世界へ誘ってくれるネクタイ。加賀氏のスタイルはタイムレスだ。
Photograph:Mitsuya T-Max Sada
Text:Michiko Ohira
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