スーツ

【リヴェラーノ&リヴェラーノ】
ピッティで知る、スーツの現在。

2023.07.12

【リヴェラーノ&リヴェラーノ】<br> ピッティで知る、スーツの現在。
10万mほどあるという生地が収められた棚の前に立つアントニオ・リヴェラーノ氏。数々の名誉賞を受賞しているマエストロだ。

名門サルトリアのスーツ仕立てとは

今のメンズ・ファッションの原点であり頂点にあるのはサルトリアだろう。フィレンツェには世界的な名店「リヴェラーノ&リヴェラーノ」がある。

オーナーのアントニオ氏は、86歳と高齢だが今でも現役のメインカッターとして活躍し、クライアントの対応から徒弟たちへの目配りも欠かさない。兄と共に年月をかけて構築してきたシンプルで優雅なフロントやショルダーを持つ抑えの利いたハウスラインはオーダー服界におけるフィレンツェ・スタイルを代表する意匠となった。「アートの傑作作品の価値が決して寂れないように、本来クラシックとはクラス感に通じるタイムレスなもの。スポーティーに装ってもエレガントで、何よりも快適であることが基本です」。アントニオ氏は確固たる哲学を持っているマエストロで、若手の育成にも熱心だ。

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店奥には中庭付きの広い工房が広がる。アントニオ氏は今でも週に5日は工房に入る。

サルトリアは80年代まで数十軒あったというフィレンツェで同店だけが存続できたのは彼の才能、そしてたゆまぬ研鑽(けんさん)に企業家精神であろう。兄を頼ってフィレンツェにやって来た70年前はまさにサルトリアの黄金期であった。「まるで街全体が学校だった」という美しき古都で、アントニオ氏は腕と美意識を磨き、やがて第一線のサルトとして名をはせていく。時にグラン・メゾンから請われて生地やニット、シューズなどのコンサルタントとしても活躍、生地選びに始まりスーツに合わせるコートやアクセサリー類の品ぞろえも秀逸、アドバイスも的確だ。

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1着分のみの生地も多いので世界で1着というスーツができ上がる。

そんな彼が憂いているのは今のス・ミズーラ界の厳しい現状、特に若手サルトと客の在り方だ。

サルトの第一の心得は「顧客との対話」だという。

「私は長年の経験で瞬時に、その人に合う生地や小物がわかります。でも服のことだけでなく、アートや音楽、食べ物などの話をしてお互いを知り合い、長くお付き合いしてゆく。サルトは装いの主治医のようなものですから」

そうして顧客の性格やライフスタイルに合った服を作ることこそがサルトの使命だという。なるほどそうやって時間と心を掛けて作り上げてゆくスーツはオンリーワンな名品ともなろう。

さすがに名門はハードルも高いが、現在プレタポルテ・ラインもあるので気軽に試せるようになった。

「スーツ文化」を楽しもう

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地域ごとのスーツの歴史も作り手の思い入れもなんと多様で奥深いことか。各メーカーに共通しているのは「男性の魅力を上げる自他共に心地よい服」作り。つまり良識あるビジネスパーソンの良き味方となるアイテムなのだ。伝統職人の街フィレンツェで起きた「ピッティ」だからこそ見えてきたメンズ服の未来である。

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Photograph:Mitsuya T-Max Sada
Text:Michiko Ohira

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