特別インタビュー
東京にインスパイアされたスペシャルなウイスキーは、
“つくり手”が共鳴し合う、遊び心と華やかな味わい。
2023.11.02
「日本の歴史と文化が大好きです。特に東京の街並みは来日するたびに魅了されます。いつか東京のために、東京にインスパイアされたウイスキーをつくりたいと思っていました」
そう語るのは、グレンモーレンジィ蒸留所の最高蒸留・製造責任者であり、バイオケミストリー(生化学)博士という異色のキャリアをもつビル・ラムズデン氏。長年、ウイスキーのつくり手として尽力し、理想の樽を求めて世界各地を飛び回る屈指のウイスキー・クリエイターである。彼が初めて日本を訪れたのは1999年。コロナ禍以前は年1、2回の頻度で来日していたという親日家でもある。このたび新作となるシングルモルト・ウイスキー「グレンモーレンジィ トーキョー」のローンチイベントにともない、約4年ぶりの来日を果たした。
「以前、東京をテーマにしたウイスキーをつくりたいと構想していた頃、遊び心からウイスキー樽は日本の樹木を選ぼうと考えました。ただ、樽を変えれば当然、風味も変わります。これは私たちにとって大きなチャレンジ。例えば、ふだん私たちが樽に使用するのは幹が真っすぐに育つアメリカンオークで加工がしやすいのですが、ミズナラオークはすこし捻れて育つので加工できる状態になるまでに倍の時間を要します。また通気性が高い半面、樽から液漏れする懸念もあったり……。そうした課題をひとつひとつ克服し、今から4年前、ミズナラオーク樽でつくったウイスキーを初めて試飲したときは、正直自分の口には合いませんでした」
そう言ってラムズデン氏は苦笑する。ただ、そこからが彼の本領発揮。バーボン樽とシェリー樽で熟成されたグレンモーレンジィを丹念に調合し試行錯誤を重ねながら、これまでにない力強い華やかな風味とまろやかな甘みの両方を絶妙なバランスで実現。まさに東京というコンテンポラリーな街が持つコントラストを反映した「グレンモーレンジィ トーキョー」の完成である。
今回、パッケージデザインを手がけたのは画家の山口 晃氏。大和絵の伝統的な様式美をベースに、油絵の技法を用いたユニークな作風で知られる日本を代表するアーティストだ。山口氏はオファーされた際、思わず「私でいいんですか?」と応えたのだという。
「ふだんウイスキーを飲まないので少し申し訳ない気持ちがありましたね。でも、『あまりウイスキーを飲まない初心者にアプローチするのも面白い視点では?』という返事をいただき、『それならぜひ!』とお引き受けしたんです」
山口氏の隣で、静かに耳を傾けるビル氏。実際に顔を合わせるのはこの日が初めてというふたりは、ときおり視線を交わしながら、互いの話に興味津々聞き入っていた。
「香りとか味とかを絵で表現するということで、抽象画のようになるのも違うだろうといろいろ悩みました。でも、きっとビルさんをはじめグレンモーレンジィの方々も僕の作風をいろいろ調べているだろうし、そこはあまり勘ぐらずに斟酌(しんしゃく)しないで遊んでしまおうと思いました」
そう言って山口氏が口元を緩めると、呼応するようにビル氏も続けた。
「遊び心は大事ですね。そもそもウイスキーというお酒は楽しいもの。今回、山口氏のパーフェクトなアートワークのおかげで、グレンモーレンジィの魅力をより際立たせることができたと感謝しています」
コントラストに富んだ東京の街並みを、遊び心を交えて描いた山口氏。そして希少なミズナラオーク樽からグレンモーレンジィがもつ柑橘系の華やな風味と芳醇な味わいを表現したビル氏。ジャンルは違えど「グレンモーレンジィトーキョー」というスペシャルなウイスキーを創り出したふたりである。互いに“つくり手”として深く共鳴し合うものがあったはずだ。
プロフィール
ビル・ラムズデン博士
グレンモーレンジィ最高蒸留・製造責任者
1998年、グレンモーレンジィ蒸留所およびアードベッグ蒸留所の最高蒸留・製造責任者に就任、以来、すべてのウイスキー製造に携わる。バイオケミストリー(生化学)博士号取得というバックグラウンドを生かしたその才能で、2012年には両蒸留所を年間最優秀蒸留所の受賞に導く。個人では、モルト・アドヴォケート・アワード「インダストリー・リーダー・オブ・ザ・イヤー」をこれまで3回受賞、ほかにも多くの栄誉を獲得している。
山口 晃
1996年東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。都市や戦場の鳥瞰図・合戦図などのほか、立体、漫画、インスタレーションなど表現方法は幅広い。近年、成田空港や東京メトロ日本橋駅などのパブリックアート、TOKYO 2020パラリンピック公式アートポスターなどを制作。主な個展に『望郷TOKIORE(I)MIX』(銀座メゾンエルメス フォーラム、東京/2012年)、『山口晃展 前に下がる 下を仰ぐ』(水戸芸術館現代美術ギャラリー、茨城/2015年)、個展『Resonating Surfaces』(Daiwa Foundation Japan House Gallery、ロンドン/2018年)。東京・京橋のアーティゾン美術館で展覧会「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」を開催中。(2023年11月19日まで)
グレンモーレンジィ トーキョー
価格:1万3200円(税抜)/ 1万4520円(税込)
容量: 700㎖
アルコール度数: 46度
熟成樽:ミズナラオーク樽、バーボン樽、シェリー樽
https://www.mhdkk.com/brands/glenmorangie/sp/tokyo/
取材協力/MHD モエ ヘネシー ディアジオ
Photograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text:Satoshi Miyashita