週末の過ごし方
俳優・町田啓太と考える、装う美学。
「師走」に変わりゆくタキシードを。
【第二期】
2023.12.22
日本には四季折々に豊かな表情があり、それぞれにふさわしい「装い」がある。それは単に体感的な暑さや寒さをしのぐといった「機能」を追求するだけのものではなく、Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)、つまりはTPOにそぐうものであるべき。そして、そのことに通底するストーリーを理解し装うことは、正しい「大人のたしなみ」と言えるだろう。
本連載は、一年の12カ月それぞれに季節を意識したテーマを掲げ、大人の男にふさわしいスタイルを模索しようというもの。小誌が培ってきたTPOに合うトラッドスタイルの知見と、現代を代表するファッションアイコン=町田啓太の表現力とのコラボレートにより、アエラスタイルマガジン流現代版「服飾歳時記」(第二期)としてつづっていく。
「師走」のタキシード、再び。
本連載の開始は2022年12月。一巡し、再び「師走」を迎えた。
「改めてこの連載を読み返すと、いろいろなことが思い出される。個人的に興味深いのは、これまで筆でしたためてきた和風月名。この一年で重ねてきた経験や、その時々の心境が、不思議と文字に表れている。やはり本質的に、“人”は変わりゆくものなのだろう」
そう語る町田に、今年もわれわれは師走に華やぎを添える「タキシード」を用意した。それも、あえて正統とされるブラックやミッドナイトブルーではなく、大人の色香を品よく漂わせるボルドーのものを。
「正統派のクラシカルな装いは素晴らしい。そこに息づくルールや意味、ストーリーは自分にとって興味深く、それらを知り、まとうことは気持ちを高ぶらせることにつながる。言うなれば服が、オンとオフを切り替える“スイッチ”になる感覚。とはいえ、もしもTPOが許すならば、より自分らしく、自由に服を楽しむこともしてみたい。その意味で、ボルドーのタキシードという選択は、エレガントなヒネリがあっていい」
メンズファッションの歴史は、保守本流、正統派をよしとしながらも、小さなヒネリを繰り返し進化してきた。そしてそこには、有名無名のスタイルセッターが関わっているケースが少なくない。例えば、ミッドナイトブルーのタキシードを発明したり、異なる複数の柄を組み合わせる「パターン・オン・パターン」のコーディネートを一般的なものにしてきたりしたウィンザー公(エドワード8世)や、ネイビーブレザーにデニムパンツを合わせるスタイルを広めたアンディー・ウォーホル。実際には事実無根のエピソードだったようだが……ジャン・コクトーが最愛の恋人と自分のためにカルティエに三連リング(トリニティリング)を特注し、恋人の死後は自身でそれらを重ね付けしたなどなど、語り草は枚挙にいとまがない。
冒頭の町田の言葉どおり、人間は本質的に「変わりゆく」ものである。その一端は、本連載を振り返れば垣間見ることができるだろう。そして、2024年の師走にはきっと、町田啓太はさらに大きな存在に進化して、より気高く、より軽やかにヒネリを利かせたタキシードスタイルでわれわれを魅了してくれるはずだ。
歳月を重ねていくのも、悪くはない。
FROM EDITOR
以前、雑誌の巻末に自分の仕事について、「読者を代表して旅に出て、その“見聞”を魅力的にお伝えする係のイメージです。旅先は、無限。見たい、聞きたい、感じて知りたい。そしてそれを伝えたいと思えば、もう旅の始まり」と書いたことがあります。その意味で、今年もたくさんの旅をしました。町田啓太さんとは沖縄、軽井沢、ミラノ……、もちろん都内スタジオでのクリエイティブな試行錯誤の旅にも。アエラスタイルマガジンの雑誌とWEBには、その記録と記憶がたっぷりと記されています。さて、町田さんとの旅はまだまだ続きます。実はこの師走にも、日本を離れた地へ――。2024年も、アエラスタイルマガジンにご期待ください!
アエラスタイルマガジン編集長[雑誌・タブロイド] 藤岡信吾
町田啓太(まちだ・けいた)
1990年生まれ。俳優、劇団EXILEメンバー。映画『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』『太陽とボレロ』『ミステリと言う勿れ』、テレビドラマ『テッパチ!』(フジテレビ系)、『ダメな男じゃダメですか?』(テレビ東京)、『unknown』(テレビ朝日系)、『漫画家イエナガの複雑社会を超定義』(NHK)など話題作に多数出演。来年には大河ドラマ『光る君へ』の出演が控える。5号連続で表紙出演中の『アエラスタイルマガジン』vol.55も要チェック!
Photograph: Satoru Tada(Rooster)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up: KOHEY
Edit & Text: Shingo Fujioka(AERA STYLE MAGAZINE)