週末の過ごし方
リーダーの庭。
2023.12.25
リーダーシップ理論で有名なサイモン・シネックの著作『インフィニット・ゲーム』によると、ビジネスや人生は常にプレイヤーやルールが変わり終着点が確定しない「無限ゲーム」である。いわく、これからのリーダーは目先の利益ではなく新しい世界のビジョンを見る能力を持たなければならない。確かに影響力を持ち何かを成し遂げていくリーダーは、時空を超えた高い視座を持ち粘り強い。そのようなスキルはどのようにしたら養えるのであろうか?
その答えが日本の庭にはある。かつて時の人は当然のように庭を造り、そこで一人思索し、自然と遊び、外交や政を行ってきた。金閣寺庭園(鹿苑寺庭園)を訪れてみよう。総門を入って木々に囲まれた道を進むと、突然、黄金に輝く舎利殿・金閣を向こうに望む《鏡湖池(きょうこち)》のほとりに出る。海外から来た観光客は、ここで「あっ」と驚き、写真を撮る。この日本庭園は、ヴェルサイユ宮殿のようなシンメトリーな配置ではなく、つかみどころのない「かたち」をもって迫ってくるからだ。全体像が見えないまま歩くにつれて、寄せては返す波のように景色が広がる。しかし、思いがけず明るく開けた場所で黄金の塔を目にすることで、人は未知の興奮に心を躍らすのだ。
池の正面にある中島《葦原島(あしわらじま)》は、日本の本州を象徴している。さまざまな大きさの島には、名木や奇岩名石が配置されている。仏教の世界観である《九山八海(くせんはっかい)》の映し絵だ。仏教に詳しくない人でも、ただならぬ岩の有り様に壮大な宇宙観を感じ取ることができる。《鏡湖池》の周りを一周すると、小山のほうに道が続く。自分が同化していた空間を外側から見ることができ、俯瞰(ふかん)するように坂を登っていくのだ。すると、金閣寺敷地の元の亭主である西園寺家が凋落していった痕跡を思わせる暗い林が広がっている。
まさに、日本の庭園は栄枯必衰をのみ込む「無限ゲーム」そのものだ。西洋の庭・ヴェルサイユ宮殿はすべてが秩序を持つ美しい場所として、王にとっては完全な領地であり、王以外の者はチェス盤の上の駒だ。一方で、日本庭園にはうつろう宇宙生成そのものの臨場感がある。権力者であっても極楽浄土にすべてを明け渡す解放を感じられる。勝ち負けを超えた不可思議な力。日本のリーダーは「無限ゲーム」攻防戦の向こうを悟る視点を得るからこそ、冷静に現実に戻っていく。強いリーダーのビジョンは庭から生まれてきたのだ。
Text: Sayaka Umezawa(KAFUN INC.)
Photograph: Maico Presente(Getty Images)