週末の過ごし方
『フルサークル』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #63
2024.01.11
初めての長編監督作品『セックスと嘘とビデオテープ』で、カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞し、その後『エリン・ブロコビッチ』や『オーシャンズ11』など、数々の受賞や記録的大ヒット作を生み出しているスティーヴン・ソダーバーグ。
高校生の頃から映画を撮っていたというソダーバーグだが、華々しいデビューから現在まで、まったくと言っていいほど休んでいない。しかも映画だけではなく、テレビドラマ界にも精力的に作品を生み出し続けているのだ。
革新的な手法やさまざまなジャンル・作風に変化し、毎回私たちを驚かせてくれる。そんなソダーバーグの新作『フルサークル』が、U-NEXTにて配信開始された(全6話完結)。
これはコメディーなのか、クライムスリラーなのか、相変わらずのソダーバーグ節が炸裂しつつ、それでいてあの巨匠・黒澤 明の『天国と地獄』にインスパイアされた作品というのだから、コアな映画ファンにはたまらない仕上がりとなっている。
舞台はニューヨーク。ある日、ギャングファミリーの一員が、何者かによって射殺された。ボスであるマハービーラ夫人は、ファミリーに降りかかる不運を断ち切るために、故郷ガイアナに帰省し、アドバイスを求めに占い師を訪ねた。占い師によると、ファミリーの悲劇は理由があって起きていて、その運命を逆転させるにはまず、ある男の孫を誘拐して殺すことだという。
そのある男とは、シェフ・ジェフとして知られる男。孫であるジャレッドを誘拐し殺すことで、ファミリーの不運の元凶である因縁の“円=サークル”を閉じることができるというのだ。
しかし、いざギャングたちが誘拐を実行するも、まったく別人を誘拐してしまった。孫は無事なものの、誰かの子どもの命が懸かっている以上、見捨てることはできない。身代金を渡し、無事解放され、一件落着する……はずはなかった。
物語は“誘拐に失敗し、後がないギャングたち”と、“どうしても手柄を立てたいクビ寸前の捜査官”、“誘拐事件をきっかけに、過去のさまざまな真実が明かされてしまったシェフ・ジェフ一家”の視点で描かれる。
『オーシャンズ11』や『コンテイジョン』でも言えることだが、ひとつの物語を群像劇のように描き、絶妙にストーリーが混ざってゆく様子が、たまらなく心地よいのだ。
一見バラバラとした物語も、実は意地悪な伏線がちりばめられていて、終幕を迎えたころに「なるほど……」と思えてしまうのだから、ただただ感服だ。
ソダーバーグの作品は、納得するために、もう一度観返す人が多いが、まさに本作もその類であることは間違いない。もしかしたら2週目の頃には、登場人物たちの滑稽さに気づき、コメディーに見えるかもしれない。
キャストには、『ジョーカー』や『アトランタ』で知られるザジー・ビーツや、『ロミオ+ジュリエット』や『HOMELAND』で知られるクレア・デインズと、相変わらずソダーバーグ作品にはビックネームがそろう。
まるで壮大な1本の映画を観たような気持ちになれる、満足感。ぜひ週末にでもどっぷりハマっていただきたい名作だ。
Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo