週末の過ごし方

医者は知らない?
日本人にとって「ととのう」ってなんだろう。

2024.06.11

医者は知らない? <br>日本人にとって「ととのう」ってなんだろう。

リフレッシュしたいビジネスパーソンの定番となっているサウナ。病みつきになる理由は、なんと言っても「ととのった〜」となることだろう。タナカカツキ氏の漫画『サ道』が起源のこの言葉はサウナーのスッキリ感を表す合言葉となって久しい。でも、サウナの本場のフィンランドでは、誰一人「ととのった〜」と言わない。筆者はフィンランドで地元民と一緒に本場のサウナに入ったことがあるが、みな静かにくつろいでいた。フィンランドのサウナは低温高湿で、ゆっくり芯からカラダを温める。石に水をかけて蒸気を発生させる「ロウリュ」を行い、温度や湿度をコントロールし、神聖な時間をおのおの堪能する。終わればデッキで時間を忘れてゆったり過ごす。日常を忘れる聖域がサウナだから、入り方も人それぞれに心地よさを追求しているのだ。

日本では、温冷交代浴を順番に行う「型」を守る人が多い。「型」をきっちりやることこそ整うにつながっているようにも思えるが、本当にそうなんだろうか? 日本語の「ととのう」という言葉に立ち返ってみると〈不足なくきちんとそろう〉〈調子が合う〉という意味がある。源氏物語には、楽器の演奏を聴いて「よろづの物の音調(ととの)へられたるは、妙におもしろく、あやしきまで響く」と評するくだりがある。(※註)「(楽譜と型が決まった曲に対して)気分にまかせかき鳴らす楽器の音色がひとつの調子になっていくのは、とても素晴らしく不思議なほど響き合う」という意味だ。音楽を評しての説明だが、「ととのう」は1+1=2のように「型」どおりに決まった結果を得ることではない。自然の背後にある見えない理(ことわり)がリズムとハーモニーの響きを通して共鳴していくことが「ととのう」なのだ。共鳴すると言っても、王朝文化の「襲(かさね)」の色目のように、色を合わせて重ねてずらして、動きのなかでチラっと見えるか見えないかくらいのそれを感じ取るには鍛えられた感性が必要だ。「サウナで整う」科学的なメカニズムは血流がよくなり副交感神経が優位になりリラックスすること なのはご存じのとおり。現在では、目に見えないカラダという理は、今やどんどん明らかになっている。しかし、フィンランド人も医者も知らないことがある。日本語で「ととのった〜」と叫ぶ者は、自律神経のバランスが陰陽の太極図のように回復していく──自然の理を日本的な感性で「美しい」とすら感じ取ってしまっているのだ。
出典:源氏物語 若菜上

「アエラスタイルマガジンVOL.56 SPRING/SUMMER 2024」より転載
ここには載せきれなかった写真は、アエラススタイルマガジン VOL.56にてお楽しみください!

Text: Sayaka Umezawa(KAFUN INC.)
Photograph: Peter Finch(Getty Images

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