週末の過ごし方

料理研究家ワタナベマキさんがおいしく読み解く!
食で季節をめでる『日本の一年、節目の一皿』

2024.08.16

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『日本の一年、節目の一皿』二十四節気七十二候+行事いろいろ ――食で季節を愛でるー―』ワタナベマキ著・小学館刊 ¥1,980

日本人は情緒的である、とよく言われる。たとえば、虫の音。季節を感じる自然の音として聴こえているのは、じつは日本人とポリネシア人だけなのだそうだ。これは、日本人が虫だけでなく波、風など自然界が奏でる音を、言語脳である左脳で認識しているから、という説がある。この感性こそが、日本人が季節の繊細な移ろいを感じ取れる、情緒豊かな精神性の持ち主と言われる理由のひとつなのかもしれない。

そんなふうに、本来わたしたちが持っている暮らしの中で季節を愛でるという温かな心を、日々の食卓から思い出させてくれるのが、料理研究家ワタナベマキさんの最新著『日本の一年、節目の一皿』(小学館刊)だ。本をめくると、改めて日本語は美しいと感じられずにはいられない、二十四節気と七十二候の漢字の並びが目に飛び込んでくる。二十四節気は、春夏秋冬の四季をさらにそれぞれ6つに分けたもの。七十二はさらに細やかな自然の移ろいに目を向けた暦。鳥や花、気象などの様子で季節を表しているものである。

「友人であり詩人の白井明大さんの著書『日本の七十二候を楽しむ 旧暦のある暮らしー』で、二十四節気七十二に出合いました。その言葉の説明を読んでいるだけで、季節の香りを感じたり、食べたいものが想像できたりしたんです。たとえば、3月の「桃始笑(ももはじめてさく)」や、7月の「蓮始開(はすはじめてひらく)」12月の「熊蟄穴(くまあなにこもる)」など、日本語ってなんてすてきなんだろう!って。花や食べ物や虫や動物。さらに喜怒哀楽的な情緒ある言葉がかけ合わさって、それをひとつずつ読み解いていくと、日本の趣き深い季節の移り変わりをリアルに感じることができるんですよね」(ワタナベさん)。

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日々タスクに追われがちな暮らしの中に、「今日はなんという日だろう?」と少しの時間ふと立ち止まり、本書を開いて今日の言葉に目をやるだけで、「外ではこの虫の声が聞こえる」や「そうだ、この花が咲くとこの香りがするな」というふうに、暮らしの近くにあっても気づいていなかった五感が開いていくような感覚をきっと得られるはずだ。

七十二候の漢字や、行事や旬の素材のエピソードのみならず、ワタナベマキさんが日常の暮らしの中で、料理研究家として全国の食文化に触れ、心が動いたドキュメントもまた、この本の読みどころのひとつ。

11月の『山茶始開(つばきはじめてひらく)』で紹介した飾り太巻きは、古くから続く千葉の郷土料理で、実際に現地の婦人会に参加させてもらって、巻き方を教えていただいたも。本で紹介したものは私がシンプルにアレンジしたものなんですけど、桜だったり松だったり人形の顔だったり、いろいろな形があるんです。私自身は関東の文化がベースなので、地方などに行くと学びも多く、同じ暦の中でも食べるものが違ったりするので、そういうものも今でもとても勉強になります。地方で学んだ精進料理が、じつは祖母のレシピカードのレシピとほぼ同じで、そういう自分のルーツと食文化のつながりを発見できるのもうれしい瞬間なんです」

季節をめでること、行事を意識することは、決して特別な料理を作ることではなく、たとえばスーパーで並んでいる、いま一番手に入りやすい旬の食材をつかった料理こそ、節目の行事食になる。そしてそれに気付くことで、自分の日常にすでにある豊かさに、改めて感謝の気持ちが湧いてくるはずだ。

「たとえば、行事だからこれを食べなきゃいけない、ということではなくって、今日この食材を近所のお店で見つけたらこれを食べようとか、あ、この季節だったよね!と、日々の小さな気づきがつなげていくようにページをめくってもらって、季節を表す言葉と食を結んで読み解いてもらえたらうれしいなと思っています」

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ワタナベマキ
料理研究家。四季や風土を大切に祖母から教わった昔ながらの料理を現代に寄り添ったレシピにし、書籍、雑誌、テレビなどで伝えている。シンプルな食材と調味料、スパイスを上手に組み合わせ、食感や香りを大切にした料理を得意としている。

Instagram:maki_watanabe

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Interview & Text : Ai Yoshida

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