特別インタビュー

70周年を迎えたクラランスが、自然保護に取り組み続ける理由。
[クリスチャン・クルタン・クラランス来日インタビュー]

2024.11.19

70周年を迎えたクラランスが、自然保護に取り組み続ける理由。<br>[クリスチャン・クルタン・クラランス来日インタビュー]

進化の著しいビューティー業界において、いまや主流となりつつある植物由来の化粧品。その先駆者であり、マーケットリーダーでもある「クラランス(CLARINS)」が、今年70周年を迎えた。8月には、一世を風靡(ふうび)した第8世代の美容液「ダブル セーラム」の後継として、研究開発に5年以上もの歳月をかけた第9世代「ダブル セーラム ADC」を全世界同時発売したばかりだ。よりナチュラルに、よりサステイナブルに消費者の嗜好が変化する現代において、クラランスは何を大切にして、どのような方向に向かっているのか、先月来日したファミーユC パルティシパシオン(Famille C Participation)マネージング・ディレクターのクリスチャン・クルタン・クラランスの考えを聞いた。

コロナ禍後の初めての来日の目的は

すでに来日歴が60回を超えるという同氏だが、今回は8月に新製品が発売になり、いつも頑張っている日本チームに感謝の気持ちを伝えるために来たという。また、何より日本が大好きな子どもたちに、今の日本を見せたいと思い、一緒に来日したと目を細める。「近代的であり、同時に伝統的でもあり、世界でも類を見ない美しい国。若いフランス人はみんな日本が大好きだ」と語るクリスチャンだが、初来日は、創業者のジャック・クルタン・クラランスに、市場開拓のために日本へ行くように命じられた45年前。ジャックは旅行嫌いだったが、当時から「自然を尊重する、自然と調和する、人々を尊重する」という日本の神道の考え方が、クラランスの理念と合致すると常に共感し、その後来日もかなえたという。

70年間変わらないクラランスの根幹

創業当初から70年間変わらずに大切にしていることは、常にお客さまの声を聴くということ。それはクラランスのルーツがビューティーサロンにあり、ゲストひとりひとりのことを考えて商品開発を行い、それを商品として販売しはじめたという創業の原点に起因しているという。また、オーセンティックであること、すなわち正当性のあるブランドであることも大切にしている。常に自然をリスペクトし、人をリスペクトし、真摯(しんし)に研究を続け、最高品質の製品を生み出してきた歴史がある。

時代に合わせて進化しつづける研究開発

反対に進化しつづけているのは研究開発だ。クラランスは、いわばポルシェの911のようなものだとクリスチャンはいう。開発当初から基本のフォルムは変わっていないが、搭載されている機能は飛躍的に進化している。クラランスの研究開発も、新たな植物成分の発見、今まで認知されていなかった有用成分の抽出、皮膚の機能の解明など、科学の進歩に対応している。また汚染された大気や、冷暖房に常にさらされている皮膚のダメージにも対処すべく、研究を進めている。

2008年に株式上場をやめて同族会社に戻したが、その理由は長期的な視野を持つことができるからだ。クラランスは常に5年、10年先を見据えている。上場企業である限り、短期的な収益に迫られ、結果として3カ月ごとに新製品を出すことになる。その短い研究開発のサイクルのために、時には完成に至っていない製品を発売しなければならないリスクがある。それはクラランスの企業戦略とは合致しない。

「ダブル セーラム ADC」
研究開発に5年以上もの歳月をかけた、第9世代の「ダブル セーラム ADC」

環境問題は将来に向けた最重要課題

またいち早く環境問題に取り組んだのは、何よりも原材料を大切にしているから。きっかけは1985年の長女の誕生だ。長女を連れて海に行ったとき、クラゲやプラスチックのゴミが大量に浮いているのを見て、これがこのまま続いたら、どこで海水浴ができるのか。養殖以外の魚や、自然栽培のフルーツや野菜をどこで食べることができるのか、危機感を覚えたという。

植林などの自然保護活動は以前より行っていたが、同じ植物を植えつづけるのは決して自然環境にはよくないことだと知り、85年以降は生物多様性に着目してきた。製品に使用するアルコールは、甜菜(てんさい)由来のものだが、甜菜畑の多くは単一の作物のみが植えられ、殺虫剤をはじめ化学薬品が使われていた。そこで生産者とパートナーシップを組み、100ヘクタールほどの畑の周りと中央に、2800種類の植物を植えた。100年前にそこにあった森を再生したのだ。その結果、土中にミミズが戻り、大地がよみがえった。

自社農園を持つ価値について

ナチュラルな原材料を手に入れるために、自社農園(ドメーヌ クラランス)の運営にも力を入れている。最初に取得したアルプス山脈の約20ヘクタールの土地では710種類の植物をオーガニック栽培している。雪のない期間が1年のうち6カ月ほどしかない気候のため、天然の植物がほとんどだが、アルプスの自然を徹底的に守るために、険しい山岳地帯にもかかわらず、エンジン付き農機も、化学肥料も一切使っていない。今年新たに120ヘクタールほどの第2の農地を購入し、今後は2030年までに原材料の1/3を自社の農園で生産するのが目標だという。

100%持続可能なサプライチェーンを目指す

サプライチェーンの全体を、持続可能な仕組みに変えていく努力もしている。まず2025年までに使用するすべてのプラスチックを、再生プラスチックに切り替える予定だ。同時にプラスチックの使用量自体を減らす工夫も積極的に行っている。実際、新作の「ダブル セーラム ADC」のパッケージは、上ぶたを取り除き、本体も薄く、軽くした。また、プラスチックオデッセイ号という民間団体の船に投資し、世界中の海や川にあふれるプラスチックの回収にも協力している。リサイクルできるものはリサイクルし、できないものは石油に戻すという取り組みを通じて、リサイクルエコノミーの確立を目指している。ただ、まだまだやるべきことは山積している。

都会の生活でダメージを受ける肌のケアに

都会に暮らしていると、太陽光線、大気汚染、ストレスなどによって、どうしても肌はダメージを受けがちだ。今回の新製品「ダブル セーラム ADC」には、5年以上の開発期間をかけて、遺伝子分野における先進理論と新たな皮膚の機能を解明し、有用成分に関するノウハウをすべてつぎ込んだ。最近は美容に関心を寄せる男性も多くなってきたが、ぜひ試してみてほしい。

クリスチャン・クルタン・クラランス
クリスチャン・クルタン・クラランス氏と息子のトム

クリスチャン・クルタン・クラランス(CHRISTIAN COURTIN-CLARINS
創業者ジャック・クルタン・クラランスを父に持ち、1974年にクラランスの国際事業のディレクターに就任。2000年クラランスグループ経営管理委員会会長、2011年同監査役会会長。2022ファミーユC パルティシパシオン マネージング・ディレクター。元ラガーマン。自然環境を守るための保護活動にも積極的に参加している。

Photograph: Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text: Yuka Kumano

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