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『アップルサイダービネガー』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #102

2025.07.17

『アップルサイダービネガー』<br>いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #102

SNSを通じて、ライフスタイルを発信するインフルエンサー。投稿した商品や意見は、フォロワーに大きな影響を与え、生き方さえも変えてしまう力を持っている。情報があふれかえる時代だからこそ真実の見極めは難しく、専門家の意見は? 出典元は? 根拠は? さまざまな判断材料から、自分自身が納得のいく情報を得ていくしかない。

『アップルサイダービネガー』のモデルとなった人物ベル・ギブソンは、インフルエンサーとして大きな影響力を持っていた。2014年当時のInstagram20万人のフォロワーを獲得し、ウェルネス系インフルエンサーとしてはトップクラスだ。

彼女は、脳腫瘍をオーガニックな食生活と自然療法で克服したとして多くのフォロワーを獲得し、健康管理を目的とした「The Whole Pantry」というアプリをリリース、そして同名のレシピ本をリリース、Apple Watchのプリインストール候補になるほどまでに、話題となった人物だ。

しかしその実態は、全くの嘘。ベルはがんなど患っていたことはなく、チャリティ偽造や寄付金詐欺など、多くの罪がジャーナリストによって暴かれ、訴訟問題に発展した。ベル・ギブソンという人物は、なぜこのようなことをしてしまったのか?

Netflixで配信中の『アップルサイダービネガー』は、そんな彼女の嘘に基づく実話をドラマ化した作品。冒頭にしつこく毎話登場人物によって言及されるが、ベル・ギブソンはこのドラマ化で報酬は受け取ってないそうだ。

物語は、ベルに影響されたがん患者や、ベルがライバル視していた自然療法を実践し、発信していたがん患者のインフルエンサーのミラ、被害を受けた出版社やベルを支えた家族など、多角的に描かれる。

注目すべきは、嘘をつきながら商売していたベルと対照的に描かれた、ミラの存在。彼女はがんを患いながら、自然療法と出合い、実践し、健康ジュースを開発し、販売していた。病気と向き合いながら、自然と共に生きる彼女に力をもらえた人は、大勢いただろう。

ミラは頑なに化学療法や手術を拒否し、家族や友人、そしてフォロワーに、自然療法を勧めていた。しかし、結果として病気は進行しつづけていたのだ。本人がそう望んだのなら…。そうは思っても、涙なしでは観ることができない。

理解しがたいのは、ベルはセンスも、行動力も、文才も持ち合わせているのに、なぜ嘘をついて関心を引こうと思ってしまったのか?という点だ。ベルがSNSで発信を始めた当初は、ECサイトが主流の時代ではなく、アプリを開発する企業はそれほど多くなかった。

正当にビジネスをしていれば、成功していた可能性は十分あったのだ。多くは語られないが、ドラマを観進めていくうちに、確実に彼女に何が足りないのかを垣間見ることとなる。

実際日本でも、このような事件は多数起きている。「私はこれで痩せた」「これを飲んで体調が良くなった」。このような発信は、絶えず毎日誰かがどこかのSNSでされていて、目にすることだろう。

インフルエンサーが案件として紹介した商品に、日本では認可されていない危険な成分が入っていて、健康被害を受けたケースや、お得な情報を発信したつもりが、詐欺に加担していたなんてケースもある。

この物語は決して他人事ではない。これほどまでに情報があふれている時代だ、何を選んでいくか、慎重に見極めなければならないのだ。こんな経験はないだろうか? 知人が試している健康法や、サプリメント、推している人物に疑問を持ったことは。

本人が幸せならそれでいいと思う半面、少しの罪悪感が宿ることもある。信じる相手を間違えると、取り返しがつかないこともあるということを、この作品を観て存分に心得てしまうだろう。

現代社会の闇を実話を基に描いたドラマ『アップルサイダービネガー』は、Netflixにて全6話配信中。

<<過去の「いま観るべき、おしゃれな海外ドラマ」はこちら

Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo

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