週末の過ごし方

ためらわない美のホテル
パーク ハイアット 東京が選んだ
全く新しいリニューアルの姿【前編】

2025.12.16

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エントランスの2階からエレベーターに乗り開放感あふれる41階へ。デザイナー、ジョン・モーフォードは「アライバルエクスペリエンス」が重要と語っていたというが、このピーク ラウンジへのアプローチが如実に物語っている。
※以下含め写真はすべてリニューアル前のデザイン

129日、約1年半の全館改装を経てパーク ハイアット 東京がリニューアルオープンした。開業当初、いまだかつてないラグジュアリーホテルとして多くの人々の心に強烈な印象を与えたホテルが選んだリニューアルもまた、ほかのどのホテルも行ったことのない選択だった。1994年の開業以来、パーク ハイアット 東京が歩んできた革新的な道程と新たに生まれ変わったホテルの姿。その根底に見え隠れする独自の美学を前後編にわたり紹介する。

インターネットの黎明(れいめい)期でまだダイヤルアップでネットにつなげていた1994年。この年は外資系ラグジュアリーホテル元年である。恵比寿のウェスティンホテル東京、目白のフォーシーズンズホテル椿山荘東京(現在はホテル椿山荘東京)そして、西新宿のパーク ハイアット 東京(以下PHT)が開業。帝国ホテル、ホテルオークラ東京(現在はThe Okura Tokyo)、ホテルニューオータニの御三家に対し新御三家と呼ばれ、ラグジュアリーホテルの新時代が始まった。

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日本で初めて建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞を受賞した丹下健三の設計による新宿パークタワーの最上部に位置するパーク ハイアット 東京。

なかでもPHTは多くの意味で「いまだかつてない」ホテルとして、強烈なインパクトを与えた。丹下健三による斬新な意匠のビル、新宿パークタワーの高層階に構成された客室やダイニングをはじめとする施設、50㎡を超えるスタンダードルーム、本の効果的な演出など、このホテルから始まったラグジュアリーホテルのコンテンツは実は数多くある。またPHTが舞台のひとつとなったソフィア・コッポラ監督作品『ロスト・イン・トランスレーション』は、脚本賞でオスカーを獲得。世界にインパクトを与え、映画の聖地として多くの人が目指すところになった。パーク ハイアットは、スモールラグジュアリーな都市型ホテルの代表的ブランドであるが、そのイメージの雛形もPHTから始まったと言っても過言ではない。

開業から30年以上の時がたつこと、そしてこのホテルのインテリアのすべてをデザインしたジョン・モーフォードがメディアの取材を一切受けなかったことなどから、PHTが革新的なホテルとして多くの道を切り開いてきたことを知る人は、今では多くないかもしれない。声高に自身を語ることをしてこなかった、そんな無口なヴィジョナリーホテルにいまだかつてない転機がやってきた。

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ほとんどすべてがリニューアルされる客室。オリジナルではイサム・ノグチの照明やアースカラーに黒のアクセントが利いたモダンなインテリア。写真のパーク スイート含め、すべての調度品もジョン・モーフォードによって選ばれた。
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客室のドアを開けるとまずウォークインクローゼットがあり、その向こうにバスルームと寝室という機能的動線も、パーク ハイアット 東京以降採用されることになる。

PHTでは2019年より、設備の経年劣化による全体的な設備更新の必要性が検討されはじめた。翌2020年には、全館閉館による改装計画へと移行。つまり、ホテルを一定期間閉め空間をスケルトンにし、すべての設備を刷新することになったのだ。

空間をスケルトン=箱の状態にするということは、ホテルのインテリアデザインもリセットされるわけで選択肢も無限である。通常ならリデザインへのまたとない機会であり、メディアが取り上げやすい話題性や人々に与える新鮮な印象、また時を経て成熟したデザイン業界などの観点から、インテリアを大きく変える選択をするのが一般的かもしれない。しかしこのホテルが選んだのは、「ホテルのレガシーを残しながら、利便性や安全性を高める」方針だった。新しいデザインとなるのは、客室とラウンジやダイニングの一部。ほかはリフレッシュ、つまりデザインは変えずに設備や資材を新しくするというスタイルである。

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1994年開業だが、その後に加えられた施設もある。デリカテッセンもそのひとつ。リニューアル後のオープンは2026年3月を予定。
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クラブ オン ザ パークにあるスパ施設。深い緑の大理石は、今は手に入れることが不可能だという。

この選択に至ったのは、伝説的デザイナーであるジョン・モーフォードの存在が大きいだろう。PHTに抜擢された香港出身のインテリアデザイナーは、それまでホテルの全館デザインを担う経験がなかった。しかもPHT以降も存在しない。驚くまでの完成度と新しい美を宿したホテルは、彼の作品と言ってもおかしくない。インテリアのコンセプトを「TIMELESS」に据え、文字どおり時を経てもモダンで洗練された知性を感じさせる存在だった(ちなみにホテルに古美術を印象的に配置したのも彼が先駆者である)。

つまり今回の選択は、PHTというホテルがこのジョン・モーフォードの偉業を理解し、敬意を払ったゆえだと言えるだろう。だからこそ、リニューアルをニュース提供の好機としてではなく、ニューヨーク グリル&バーをはじめとした多くの部分を、ホテルの宝として全く同じデザインで残しながら、機能性を高めるという決定を下したのである。しかも開業当時の計画はバブル崩壊前である。日本が好景気に沸き、円高だった時代と今では、建設事情も全く異なる。にもかかわらず、そろばん勘定では計上できない価値を重要視し、合理性ファーストでは決してできない道を選んだのだ。

そんな勇気ある改築の主役は、リニューアルデザインをコンペで勝ち取ったパリを拠点にするデザインユニット、ジュアン マンクである。ジョン・モーフォードにとってPHTが日本で初めてデザインしたホテルであるように、彼らにとってもこれが国内で最初に手がけたホテルとなる。次回はレジェンドの継承という非常に難しい役割を彼らがどう受け止め、そしてどのように新しくなったのか。さらにはリニューアルからうかがえる、ホテルの哲学に迫りたい。

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パーク ハイアット 東京
Park Hyatt Tokyo
東京都新宿区西新宿3-7-1-2
tokyo.park.hyatt.com

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